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すべての過去と確執に決着をつける最終エピソード。瞳が最後に映したものは-『妖琦庵夜話 ラスト・シーン』

『妖琦庵夜話 ラスト・シーン』

榎田ユウリ/2021年/288ページ

「ゲームをしよう。兄は守る。弟は奪う」
父親である<鵺>に残酷なゲームを強いられる伊織。
勝利条件は、弟で<鬼>の青目から、小鳩ひろむを守り抜くことだ。
だが、刑事の脇坂は意識不明のまま、
さらに警視庁Y対は解体され、鱗田を頼ることもできない。
伊織は、夷、マメ、そして<犬神>である甲藤の力も借り、
全力でひろむを護衛するが……。
「このゲームは圧倒的にディフェンスが不利だ」
妖奇庵の皆の運命は。本編決着巻!

(Amazon解説文より)

 

 何者でもない存在であり、稀代の犯罪者であり、伊織と青目の父親である《鵺》から叩きつけられたゲーム。14日間、伊織は小鳩ひろむを守り抜けば勝ち。青目は彼女を殺すことなく奪えれば勝ち。脇坂刑事は昏睡状態のまま入院しており、鱗田刑事は謹慎中であり警察を頼ることはできない。圧倒的に不利な状況の中、伊織は《管狐》芳彦、《小豆とぎ》マメとトウ、《犬神》甲藤を交代制でひろむの警護に当たらせる。だが青目が張り巡らせた罠と圧倒的暴力、そして“内通者”の存在もあり、警備は破られてしまう。そして迎えた最終局面、ひろむを連れて現れた青目は、自らの本当の望みを叶えるため、最後の交渉を伊織に持ち掛ける。すべてが《鵺》の掌の上にあることを知りつつも、伊織はある決断を下す…。

 

 これまでのレギュラー陣全員に見せ場のある、理想的なラストエピソード。傍から見れば厄介メンヘラサイコパスでしかない青目というキャラ、ここにきてようやく「わかって」きた気がする。甲藤と鱗田という珍しいコンビの会話、ちょくちょく顔は見せていた脇坂の家族など細かい部分の掘り下げも良い。正直なところ《鵺》はよくあるゲームをしよう系黒幕でしかなく魅力は薄いのだが、こいつは“兄弟が乗り越えるべき壁”でしかない、文字通りの邪悪なのでこれくらいの扱いでじゅうぶんである。妖人を見分ける目を持つ《サトリ》たる伊織のアイデンティティ、兄弟の確執、縛られてきた過去、そのすべてに「決着」をつける見事な最終巻だ(本当はもう1巻だけ続くのだけど)。

 それにしてもこのシリーズ、表紙イラストの「本編の切り取り方」も素晴らしかった。サブタイトルの付け方も完璧。

★★★★☆(4.5)

 

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