『妖琦庵夜話 その探偵、人にあらず』
榎田ユウリ/2013年/320ページ
突如発見された「妖怪」のDNA。それを持つ存在は「妖人」と呼ばれる。お茶室「妖琦庵」の主、洗足伊織は、明晰な頭脳を持つ隻眼の美青年。口が悪くヒネクレ気味だが、人間と妖人を見分けることができる。その力を頼られ、警察から捜査協力の要請が。今日のお客は、警視庁妖人対策本部、略して“Y対”の新人刑事、脇坂。彼に「アブラトリ」という妖怪が絡む、女子大生殺人事件について相談され…。大人気妖怪探偵小説、待望の文庫化!!
(「BOOK」データベースより)
見た目は人と変わらない、妖怪DNAを持つ「妖人」が人口の数パーセントを占める時代。警視庁の妖人対策本部、略してY対の新人刑事・脇坂洋二は、ベテランの鱗田仁助に連れられて茶堂家「妖琦庵」へあいさつに出向く。主人の洗足伊織は毒舌家で理屈屋という偏屈な人間だったが、人間と妖人を見分ける力を持っている。直線バカで騒がしく物知らずの脇坂は伊織に大いに厭味を言われるものの、今までの新人のように「二度と庵を跨ぐな」をまでは言われなかった。
脇坂がY対に所属してからの初仕事、それは「女子大生が監禁され、減量を強いられたあげく崖から突き落とされる」という奇妙な殺人事件の調査だった。犯人が男性であることくらいしか判明しておらず、妖人への偏見や差別がはびこる世間では《油取り》の仕業ではないかと噂されていた。脇坂に意見を求められた伊織は「油取りは人さらいへの恐怖が生み出した伝承で、妖人《油取り》は存在しない」と言うものの、脇坂は《油取り》を名乗るダイエット食販売業者の台帳を手に入れていた。その業者、青目甲斐児の名を聞いた伊織は顔色を変え、Y対への協力を申し出る…。
青目甲斐児とはいかなる男なのか。女性を監禁し強制的に痩せさせるという、奇妙な犯罪の目的はなんだったのか。被害者はなぜ女物のネックレスを握りしめていたのか。そして脇坂の前に現れた、青目ではないもうひとりの《油取り》を自称する男の正体とは…。
角川ホラー文庫でもおなじみの妖怪モノであり、同時に探偵モノでもある。「妖怪探偵」と書くとチャイルディッシュさが拭えないが、本書にそのような心配は無用。人間と同じ姿ながら異なるDNAを持つ“妖人”という設定がとにかく秀逸なのだ。妖人の外見は普通の人間と変わらないので、人の姿から大きくかけ離れるような「一反木綿」などはあくまで伝承としての妖怪に過ぎない。存在するのは泳ぎが上手く肺活量のある《河童》、子供のような外見で年を取らない《座敷童》の妖人などで、人とは異なる彼らの一族が妖怪として言い伝えられた…という世界観である。妖人には異能を持っていない者も多いのだが、彼らは被選挙権がなかったり、義務教育の教員になる資格がなかったりとエグめの差別を受けている。奇抜ではないがリアリティがちょうどよく、いくらでも話が広がりそうだ。
登場人物もわざとらしさが無く、言動・行動に筋が通っていて好感の持てる人物が多い。伊織もまた妖人であることが明かされ、なかなか複雑なバックを持っていることが示唆されている。伊織の家令(執事)にして《管狐》の妖人・夷芳彦、《小豆とぎ》の家事手伝い・弟子丸マメといった連中も程よく好感が持てるし、何より人情家で熱血漢というド直球な脇坂のキャラが良い。事件の謎解き部分も、妖人というある意味何でもアリな設定に頼らないものとなっている。キャラノベルとして全方位に隙の無い1冊。
★★★★(4.0)

