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快楽殺人鬼vs性犯罪者vsパラノイア、三つどもえの札幌グルメ大決戦-『パラノイア』

『パラノイア』

和田はつ子/2004年/215ページ

春休みの中学校の教室で血まみれの男女の教師の死体が発見された。現場に残されていたのは、血で描かれた星型の印と、瞳を血で塗られたステゴサウルスの画だった。その後、被害者のふたりはインターネットを使い、生徒の盗撮写真を販売していたことが判明する。事件を警察へ通報した在校生の妹はその盗撮サイトの標的となっていた。警察は第一発見者の少年を疑うが――。

弄ばれた少女たちの哀しみを描く切ないサスペンス・ホラー。

(裏表紙解説文より)

 

 札幌の中学校教師・中野実が、東京のホテル屋上から転落死。現場からはナッツの欠片が発見された。警視庁の水野薫刑事は、知人の食文化専門の文化人類学者・日下部遼に協力を仰ぐ。ナッツの正体はビスコッティというお菓子であることが判明した。

 さらに中学校の職員室で、教師の末広常明・友永ルミ子が殺害される事件が発生。現場に残されていたのは五芒星のダイイングメッセージと、犯人により目を真っ赤に塗られたステゴザウルスの絵。調査の結果、末広と友永は生徒たちを撮影した児童ポルノサイトを運営しており、転落死した中野は末広と連絡を取り合っていたことが判明。また、現場の状況から中野は自殺ではなく、悪意ある第三者がその場にいたことも明らかになった。彼も末広たちと同様、何者かに殺害されたのだろうか。末広の遺した五芒星は、札幌の五稜郭を現しているのでは…? 

 そんな折、日下部は仕事づきあいのある「北海道食文化研究会」のライター・藤沼リエに講演を頼まれ、札幌へ向かうことになった。研究会メンバーと会い、特製アイスクリームに舌鼓を打ち、親交を深める日下部。時を同じくして、事件の鍵は北海道にあると睨む水野刑事も北へと向かっていた…。

 

 北海道新聞に連載されていた作品らしく、ご当地ネタはいつにも増して多め。料理・グルメ関係の描写も豊富で楽しい。この日下部遼シリーズ、今ならグルメ要素を大々的にウリにするようなタイトルが付けられていてもおかしくないと思う。一方で事件そのものは凄惨で、謎めいた奇怪な殺人現場は興味を惹く。大人になりきれない大人たちや児童への性暴力といった社会の暗部について、登場人物の口を借りてストレートに言及されているのも印象深い。タイトルにある「パラノイア」に加え、性犯罪者に快楽殺人鬼まで登場する大盤振る舞いぶりも良い。

 …と、部分部分は悪くないのだが、推理自体はわりと強引で、謎が明かされていく過程も唐突感が拭えず、ミステリとして見れば凡作と言わざるを得ない。いかにも謎めいた「犠牲者の血で目を真っ赤に塗られたステゴザウルス」が、本当に謎のままで終わってしまうのはいかがなものか。あと相変わらず事件現場に日下部をホイホイ入れたがる水野刑事もどうかと思う。良くも悪くも2時間サスペンスドラマ的なサービス精神と大雑把さを感じる1冊。

★★☆(2.5)

 

角川グループパブリッシング
発売日 : 2004-01-10

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