『孤島の鬼』
江戸川乱歩/2000年/413ページ
自宅の密室で恋人を刺殺された蓑浦金之助は、彼女が残した謎の系図を手に、死の真相に迫る。何かに導かれるように向かった孤島で金之助を待ち受けていたのは、想像を絶する恐怖だった―。妖気漂う筆致で事件を生々しく再現する表題作のほか、覗きをモチーフにした「湖畔亭事件」を収録。乱歩ファン垂涎の一冊。
(「BOOK」データベースより)
「孤島の鬼」については『江戸川乱歩ベストセレクション』を参照のこと。探偵小説と怪奇小説と冒険小説のハイブリッドという、乱歩100%の必読快作だ。
「湖畔亭事件」は、覗き趣味のある男が旅館・湖畔亭に逗留することから物語が始まる。男は手持ちのレンズと鏡で、自分の部屋から浴場の脱衣場を覗き見できる仕組みを作成。客や女中のあられもない姿を見て楽しんでいたが、ある夜、刃物を持った男が女性の後ろから近づき、おびただしい血が流される現場を見てしまう。脱衣所には大量の血痕が残されており、湖畔亭に呼ばれていた芸者・長吉がその夜を境に姿を消していることが判明したが、死体はどこからも見つからなかった。長吉はどこへ消えたのか? 男が見た「手の甲に傷のある男」の正体とは? 男は自分と同じ湖畔亭の滞在客・河野と共に独自の調査を開始するのだが…。
「孤島の鬼」はまぎれもない傑作であり、「湖畔亭事件」のほうも「手がかりをつかんでいるのに大っぴらにできない主人公」の微妙な立場が面白く、ラストのどんでん返しも印象的な佳作。ただ、この両作品をカップリングした意図はイマイチ掴めない。今から読むなら手に取りやすい「ベストセレクション」版でもいい気はする。
★★★★★(5.0)