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次元を越え、読み手にも届く永遠の呪い。甘く鈍く重い痛みが胸を穿つ-『少女禁区』

『少女禁区』

伴名練/2010年/173ページ

 

15歳の「私」の主人は、数百年に1度といわれる呪詛の才を持つ、驕慢な美少女。「お前が私の玩具になれ。死ぬまで私を楽しませろ」親殺しの噂もあるその少女は、彼のひとがたに釘を打ち、あらゆる呪詛を用いて、少年を玩具のように扱うが…!?死をこえてなお「私」を縛りつけるものとは―。哀切な痛みに満ちた、珠玉の2編を収録。瑞々しい感性がえがきだす、死と少女たちの物語。第17回日本ホラー小説大賞短編賞受賞。

(「BOOK」データベースより)

 

 「chocolate blood,biscuit hearts.」-他人と体験を共有する通信機器、「サイネット」が流通した近未来。世界を牛耳る大財閥・鏑木技研の後継者として育てられた、夕乃と相馬の姉弟。冷徹な父・鏑木陶彌から帝王学を叩き込まれてきた2人は、激しく父親を憎みつつもその支配下から逃れられずにいた。陶彌の死後、財閥を狙うテロリストの襲撃から逃げおおせた姉弟は鏑木技研から離れ、新たな生活を始める。だがまだ若いふたりが食い扶持を稼ぐには、サイネットで自らの体験を配信するくらいしか手段がなかった。元・大財閥の子供たちが配信する‟記憶”は話題を呼ぶが、次第に視聴者たちの要求はエスカレート。性的な下卑たリクエストに応えるたび、収入は爆発的に増えていく。引き際がわからないまま、姉と弟の配信は過激さを増していき…。

 YouTuberやVTuberが身近となった今、改めて読むとより解像度が増す近未来SF。サイネットの下劣な視聴者はむろん、読者そのものである。最後に向けられた刃が我々をぐさりと刺しに来た瞬間、何を思えばよいのだろうか?

 

 「少女禁区」-15歳のころの‟私”は、類稀なる呪詛の才能を持つ少女の玩具にされていた。その振る舞いは傲慢にて不遜、陰口を叩くものは意趣返しで呪われた。さらに、彼女は実の父親と継母を呪い殺しているという…。少女は禍そのものであり、村で起こる変事はすべて彼女の仕業とされていた。「お前が私の玩具になれ。死ぬまで私を楽しませろ」…。呪いのひとがたに釘を打ち、少女はあらゆる呪詛で私を苛んだ。そして、村で祀られている大蛇、‟釘食様”に人柱を捧げる神事の日。私は少女に連れられて、釘食様の祭りの場へと向かう。それが永遠の別れになるとは知ることも無く…。

 呪術がカジュアルに広まっている異世界で、ドSの美少女に呪いで苛め抜かれる…という設定と導入はライトであるが、このあまりにも甘く、重く、そして空恐ろしい雰囲気が読み進めていくうちにどんどん濃密になっていく。そしてラストの一行、たった一行であらゆる感情が爆縮する…。これはいけません。青少年には刺激が強すぎる。古典的なテーマをこう仕上げてくるのか!? という純粋な衝撃でノックアウトされてしまう。

 

 2編とも文句なしの傑作にして野心作であり、日本ホラー小説大賞・短編賞受賞も納得の出来。現在は入手難で、電子書籍化もされていないのが惜しまれる。どうせなら『日本ホラー小説大賞≪短編賞≫集成』に収録してほしかった。

★★★★★(5.0)

 

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