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トレンディでナウいアベックが怪奇事件を雰囲気で解決!-『怪奇博物館』

『怪奇博物館』

赤川次郎/1997年/365ページ

「狼男、ね…」私は、首を振った「変身したんですって?」「それは知らないけど…」と哲平は肩をすくめて、ベッドサイドテーブルの上のタバコに手を伸した。「ベッドの中じゃ喫わないって約束よ」「あ、ごめん―ついくせになってるんだ」。お説教じみた言い方になってしまうのは、八つも年齢が違うせいか。私の名は宮島令子。J大学社会学科の助教授で、独身35歳。佐々木哲平、仕事の上でも、実生活でも、私の助手である。「さあ、もう帰りましょう」と私は起き上った。「まだ早いよ」と哲平。「こういうことは、ちょっと物足りないくらいで、ちょうどいいのよ」…人気随一の著者が、年上の女と青年の「ちょっといい関係」を舞台に彫りあげた「ホラーミステリー」。

(「BOOK」データベースより)

 

 大学助教授の宮島令子・35歳は、助手の佐々木哲平・27歳と恋人関係。特に探偵でもない2人なのに、なぜか怪奇な事件が彼らのもとへ舞い込む。令子は特に理由は無いが推理が得意だし、哲平は警視庁の知り合いがいたりするのでイチャイチャしている間に事件がなんとなく解決するのであった。なんとも赤川次郎らしいバディものである。この令子と哲平の課外授業シリーズ(フタバノベルス版表紙より)4編のほか、それとは関係ない3編が交互に収録されているのでちょっとややこしい。課外授業シリーズはホラーっぽいお膳立てがなされているが犯人はすべて人間という超自然要素のないミステリであり、他3篇は普通のホラー短編なのでこれまたややこしい。ついでに言うと「令子」という全然関係ないキャラが課外授業シリーズ以外の話に出てくるためとにかくややこしい。

 

 「狼男 町を行く」-大きな牙を持つ、二足歩行の獣に男性が喉をかみ切られるという殺人事件が都会の団地で発生。犯人は本物の狼男なのか? 続けて事件の目撃者である哲平の知人も襲われてしまい…。特に証拠もなく事件の真相を見抜いてアッサリ解決する令子の手際には呆気に取られるばかりである。

 「吸血鬼の静かな眠り」-中学一年生の敏子とその一家が越してきた家の地下室には、大きな棺があった。棺に触れた敏子の脳裏に「私を動かしてくれ」という何者かの言葉が浮かぶ…。姿を現さない吸血鬼らしき何かの影がなかなか不気味で、本書の中では唯一のホラーらしいホラーと言ってもいい。

 「呪いは本日のみ有効」-絵に描いたような金持ちのお嬢様の誕生パーティーに、何者かが呪いの藁人形をプレゼントとして置いていった。お嬢様は恋敵を呪ったところ、一人は体調を崩して入院し、そしてもう一人は胸に太い釘が刺さった死体として発見される。藁人形の呪いは本物なのか?

 「受取人、不在につき―」-マンションの各部屋で人や家具がつぎつぎと消えてしまう。洋子は一連の事件が、自分が下の階の住人の受取人不在の荷物を受け取ったころから発生していることに気づき…。なんだそりゃとしか言いようのないオチがすごい一編。

 「帰って来た娘」-交通事故で死んだ娘が帰ってきた。生前の娘と同じように振る舞うその女の目的は何か。それとも本当に死んだはずの娘が生き返ったのだろうか…? 先の展開が気になる抜群のシチュエーションを、あまりに無理のある結末で締める惜しい一品。

 「避暑地の出来事」-ジェイソンが出そうな森の湖のほとりの小屋にアホの大学生連中がやってきて、なんか人の気配はするし、近くに幽霊屋敷みたいなのもあってギャーってなる話。

 「恋人たちの森」-公園で青姦しようとしていたチンピラカップルの男がその場で首を吊って死ぬというある意味面白い事件が発生。真犯人もトリックも無茶苦茶。

 

 赤川次郎のホラー短編は「着眼点はいいのに、何か物足りない」ものか、「何もかも足りていない」ものの2つに大別できるが、本書の収録作品もその例に漏れない。令子も哲平もどうも人間として薄っぺらく、2人をつなげているのは肉欲でしかないように見えるのだが、その辺もあっけらかんと描写しているのがなんとも80年代的というか…。事件の真相も犯人の動機も真相判明までの過程もこれまた薄っぺらいものばかりで、ライトさが悪い方向に作用してしまっている気がする。

★★☆(2.5)

 

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