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著者のホラー作品の中では随一の完成度。閉鎖的な町で起きる連続殺人の意外過ぎる真相-『魔女たちのたそがれ』

『魔女たちのたそがれ』

赤川次郎/1997年/305ページ

津田は小さな雑貨の卸売会社に勤める28歳の独身男性。今日は、15人の社員のうち5人が休みで、目のまわるような忙しさだ。奇妙な電話は、そのさなかに掛かってきた。「助けて…殺される」あの声は、幼なじみの依子。確か山の中の小さな町で小学校の教師をしている筈なのに…。閉鎖された町で連続して起こる、動機不明の殺人事件。狂気、憎悪、蔑視、混乱の果てに隠された恐るべき事実と結末。意外な犯人の素顔は。

(「BOOK」データベースより)

 

 著者初のホラー長編とのこと。角川ホラー文庫にも多数の作品が刊行されている赤川次郎だが、個人的にホラーとしていちばん出来がいいのは本作と続編『魔女たちの長い眠り』ではないかと思う。
 物語は幼なじみの女性・依子から「殺される…」との電話を受けた青年・津田の視点による話と、津田によって救出された依子が語る過去の話で構成されている。依子が教師として勤務する山奥の町で、生徒の1人が原因不明の死を遂げる。依子は、葬式の時に訪れた女性を生徒の父が刺殺する現場をはっきり見てしまう。だがその事件はニュースになることもなく、警官も言葉を濁すばかり。依子は一連の出来事について調べるうち、町の人々に忌み嫌われる「谷」と呼ばれる集落があることを知る。
 町の病院に入院した依子の話を聞く津田と刑事の小西だが、病院の周囲で女性が喉を切り裂かれる猟奇殺人が起きる。そして一瞬の隙に依子も姿を消してしまった。いったいこの町で何が起きているというのだろうか…?

 文章のテンポと読みやすさは流石のもので、矢継ぎ早に起きる事件のおかげでまったく先が読めない展開もスリリング。最終章の幕切れは非常にあっさりしており、いくつかの謎も放置されたままだが、真相自体はなかなか衝撃的である。登場人物のその後の顛末や謎のいくつかは続編で明らかにされている。

 鬼気迫る口絵はカドカワノベルス版の表紙イラストで、「描かれているのが誰か」ということに気づくとなかなか怖い。それにしても本作も続編もルビがやたら細かいというか親切である。ジュニア向けかと思ったがそれにしてはベッドシーンなども普通に出てくるし、なんなんだろう。

★★★☆(3.5)

 

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