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怖くはないがオチは秀逸。じつに赤川次郎らしい短編集-『さよならをもう一度』

『自選恐怖小説集 さよならをもう一度』

赤川次郎/1994年/270ページ

夕闇の教会に現れた若い女。死を冒涜するかのような彼女の告白が、神父の心を乱す―。愛しい人をとり戻すために、彼女が犠牲にしたものは?許されぬ恋への執着、成功への欲望、幼い憧れ、小さな善意…ふとした心の揺れが自らの意志をも越えた結末を導く〈書下し表題作〉他五編。

(「BOOK」データベースより)

 

  「旧友」-10歳の頃、捨てられていた子犬を助けた朋子。その後、朋子が危機に陥ると子犬の幻影が現れ、彼女を救ってくれるようになる。しかし、子犬は彼女の恋人をも敵と見なすようになり…。わりとよくあるタイプの動物怪談だが、意思が通じているようで通じていない、という子犬との関係は厭なリアリティがある。「いなかった男の遺産」-存在感の薄いサラリーマン・谷川は、部長から「わが社の社員を名乗って勝手に取引を進める、小田という男を探れ」と任を受ける。実在しない社員を自称する男の目的とは? というビジネス小説&ミステリ。「駐車場から愛をこめて」-仕事のできないダメ新入社員・中田。会議資料のコピーをてんやわんやの末になんとか揃えるも、「駐車場を一台確保しておけ」というタスクに失敗し、絶望のあまり死んでしまう。ささやかなミスを挽回するために奮闘するもどんどん追い詰められ、つまらない理由で死んでしまう中田には同情を禁じ得ない。心霊現象よりも彼の仕事ぶりのほうがホラーである。「怪物」-作文が得意な女子中学生が、たわむれに書いたなりすまし手紙で人々の運命を弄ぶ。「善の研究」-70過ぎの老人が、世直しのため“社会のダニ”の殺人を計画する。二重のオチが見事に決まる良短編。「さよならをもう一度」-事故で死んだ恋人に最後の別れを告げるため、悪魔と取引したと教会の懺悔室で告げる女。神父は事の真相を確かめるために、当の事故現場へ向かうが、そこで再会した女は今まさに悪魔がやって来たと語り…。

 まったく怖くはないもののバラエティに富んだ内容で、どの短編もオチが効いている。じつに赤川次郎らしい短編集という印象だ。「善の研究」は笠智衆主演でドラマ化されているとのこと。

★★★(3.0)

 

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