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時には淡々と、時にはユーモラスに市井の人々のドス黒さを描く短編小説+コミック-『隣人』

『隣人 内田春菊ホラー傑作選』

内田春菊/2002年/258ページ

とある集合住宅で新生活を始めた共働きのカップル。夫はコピーライター、妻はスタイリスト。まわりは専業主婦ばかりらしい。最初は至極快適に思えた住まいだったが、やがてふたりの身辺に、不可解な出来事が起こりはじめる…(「私が何をしたっていうの」)。この世で一番怖いのは、“善意”に満ちた普通の人。思わず我が身を振り返らずにはいられない。内田春菊、初のサイコ・ホラー傑作選。

(「BOOK」データベースより)

 

 コミック3編を含む短編集。上記解説にある「私が何をしたっていうの」は、隣人の嫉妬と一方的な正義感によって追い詰められていく若夫婦の話。「若妻にやる気をなくさせる方法」「働く妻にやる気をなくさせる方法」は、いかにして効率よく精神的に妻を追い詰め、夫に逆らわないように仕立て上げるかをレクチャーする厭~な話。モデルがいるんじゃないかと邪推してしまうリアリティ。7つの連作「クユクユがあばれる」はストーカーじみたファンにイラつく女優、日記を勝手見する母にイラつく女子高生、ずうずうしい彼女にイラつく青年、母と会社と虫歯にイラつく新入社員、身勝手な彼氏にイラつく女子大生、靴をくわえて持って行ってしまう飼い犬にイラつく会社員、しつこすぎる同僚の彼氏にイラつくOLと、市井の人々のイラっとする瞬間をそれぞれの独白で描く。クユクユとはでかい淡水魚のことらしい(多分)。「負けたくない」はクラスメイトを羨み、恨んでばかりいるルリちゃんに待ち受ける、あまりに残酷な決して覆らない運命のお話。「部分」はわりとオーソドックスな女子校コックリさん怪談。「すてきなボーナス・デイ」は、このタイトルで一行目が「会社から帰ったら、母が死んでいた。」で始まるステキ過ぎる毒親話。「田中静子14歳の初恋」は、とある少女の妊娠をきっかけに異様な家庭環境が明らかになる話で、ラストを飾るにふさわしい衝撃。『ファザーファッカー』が書かれるのはこの作品の後である。

 どの作品も非常にえげつないテーマを取り扱っているが、時には淡々と、時にはユーモアを交えて描く作風のおかげで読みやすい。サクサクと軽い食感で仕上げられた劇薬。

★★★(3.0)

 

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