角川ホラー文庫全部読む

全部読めるといいですね。読んだ上で、おすすめしたい作品は全力で推します。

「寄生生物モノ」に期待する全シチュエーションを網羅。エログロに満ちたダークヒーロー譚-『バジリスク 寄生生物』

『バジリスク 寄生生物』

椙本孝思/2012年/347ページ

高校生の優奈は、幼い頃から猟奇的な悪夢に悩まされていた。そんな中、友人が無残な死体となって発見される。失意とともに、人間業とは思えない残虐さに恐怖する優奈に、話があると声をかけてきたのは、学校内でも美形と評判の生物科の教師・伊賀野だった。部屋に連れ込まれ、伊賀野から凌辱的な身体検査を強要される優奈。そしてその夜から優奈の身に異変が起こり始めるのだった…注目の奇才が描く恐怖のバグズホラー。

(「BOOK」データベースより)

 

 「寄生生物」という単語、少女と巨大な蟲、積み重なる死体。タイトルと表紙から想像できる内容がほぼ読者の期待通りに展開される、B級として満点に近い作品。人間の精神に寄生し、人肉食への渇望を植え付ける“インセクト(虫)”と、その虫を喰らうことで自らの欲求を満たす“バジリスク(トカゲ)”との戦いを描く連作5編からなる短編集である。

「生物教師」-高校生の橘優奈は、子供の頃の自分が人肉をむさぼり喰う全裸の毛むくじゃら中年男性と遭遇する夢に悩まされていた。そして優奈の周囲では猟奇的な殺人事件が連続して発生し、親友の葵も全身を食いちぎられた姿で発見された。新任の生物教師・伊賀野を犯行現場付近で見かけた優奈は彼を怪しむが、伊賀野は優奈を生物室に呼び寄せ、服を脱いで全裸になるよう命令するのであった。

「隣人監視」-若くして夫を失った咲子は、幼い息子・泰斗と共にマンションで暮らしていた。隣に引っ越してきた冴えない男・市原はあまりにもキモく、キモいうえに臭いし目つきがいやらしいうえにキモかった。そのうち市原は咲子の行く先々に現れるようになり、ストーカーじみた行為に恐怖を覚えた咲子は、偶然出会った占い師・伊賀野に助けを求めるのだが…。

「人喰屋敷」-年明けから間もないある日の真夜中、猛吹雪に見舞われた山中で、吹雪から逃れるようにして8人の男女がとある屋敷に駆け込み、一夜を明かすことになった。スノボ帰りの大学生・香織と萌、道に迷ったセールスマンの五島と東、温泉旅行帰りの三津井と福地と円藤、出張帰りに吹雪に遭遇した伊賀野。和気あいあいと酒を酌み交わし、眠りにつく彼らだったが、その晩、全身を食いちぎられた死体が発見される。生き残ったうちの誰かが犯人なのだろうか…?

「徘徊老人」-小学生を裸にして全身を嘗め回す老人が登場したが、死んだ。

「寄生生物」-連続殺人事件から1年。いまだ心の傷をぬぐい切れない優奈だったが少しずつ明るさを取り戻し、沖縄への修学旅行を心待ちにして過ごす日々を送っていた。そんな彼女の前で、またもや発生する猟奇事件。不安を抱きつつ沖縄へと旅立つ優奈の前に、伊賀野が再び姿を現した。

 

 人間ならざる者・バジリスクの宿命を背負った者と、欲望のまま殺戮を繰り返す寄生生物との終わりなきバトル。バジリスクは決して人類を守る正義の味方ではなく、傍から見ればただの変質者みたいな行為にも及んでいるのだが、実際はほとんど医療行為なのでご安心ください。過剰なグロとエロだけではなく、ほどほどに予想を裏切るストーリー展開、各話のバラエティさを保ちつつ1冊の中で見事に完結する手際のよさも含め、とことんエンタメに徹した作品である。キャラクター文芸に仮にも「ホラー」を名乗らせるなら、本書くらいのサービス精神は欲しいと思ってしまった。

★★★★☆(4.5)