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人の身体を操る、謎の存在が起こす猟奇殺人。悪霊か催眠術か宇宙生物か、その正体は…-『傀儡の糸』

『傀儡の糸』

亜木冬彦/1993年/226ページ

深夜のオフィス街で、突如発生した連続猟奇殺人事件。内臓を全て引き出された死体は、どれも無残を極めていた。そして奇妙なことに、どの死体も指の一本が現場に見あたらない。一体誰が、何の目的で…。気鋭の新人が描く恐るべき狂気の世界。

(「BOOK」データベースより)

 

 片手の指を全て切り落とされ、そのうち一本が持ち去られるという連続殺人事件が発生。本書のタイトルと、プロローグで語られる「包丁を使っていたら、意志に反して自分の指を切り落としそうになる男」の存在から、読者は「ははあ、人の身体を操って殺人を行わせる存在がいるのだな」と気づく。だが、それが悪霊なのか、催眠術なのか、土着の化物なのか、宇宙生物なのか、科学的なトリックなのか、読み進めてもなかなか分からない。第一章から登場するヒロインが精神科医であること、彼女が山奥の田舎に居たころに豹変した父親に襲われたこと、患者の1人が「大いなる宇宙存在ガイルマー」の存在を信じていること、いろんな要素がまんべんなく出てくるので、本作がどこに着地するのかなかなか悟らせてくれないのだ。なかなかうまい構成だと思う。

 で、わくわくしながら最終章にたどり着き、エピソードを読むと「?????」となってしまう。「主観視点での描写がすべて幻だった」というマンハッタン・トランスファー(ジョジョ6部の)みたいな掟破りを2回もやらかすせいでアンフェア感が強く、「あの人が真犯人なら、あのカッターナイフはなんだったの?」みたいな新たな疑問を真面目に検証する気が薄れてしまう。ラストまではそれなりに楽しく悩みながら読めたのだが。

★★★(3.0)

 

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