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冒頭の“洒落怖”な雰囲気は抜群ながら、ゲーム的展開がリアリティを削ぐ凡作-『ハラサキ』

『ハラサキ』

野城亮/2017年/208ページ

百崎日向には幼少期の記憶がほとんどない。覚えているのは夕陽に照らされる雪景色だけだった。結婚が決まり、腹裂きの都市伝説が残る、故郷の竹之山温泉に向かう電車の中で日向は気を失う。目覚めるとそこは異世界の竹之山駅だった。女性の死体、襲いかかる黒い影、繰り返される残酷な悪夢。失った記憶を取り戻したとき、真の恐怖が日向を襲う―。戦慄のノンストップホラー。第24回日本ホラー小説大賞読者賞受賞作。

(「BOOK」データベースより)

 

 百崎日向は、故郷の竹之山温泉街へと向かっていた。先だって一人、竹之山に到着していた日向の婚約者・神原正樹は、立ち寄った居酒屋で竹之山に伝わる都市伝説「ハラサキ」の噂を聞く。悪いことをした人間はハラサキの世界に閉じ込められ、文字通り腹を裂かれてしまうのだという。

 日向は道中の電車の中で、小学校の同級生だった相原沙耶子と再会する。だが実は、日向には小学生時代の記憶がほとんど残っていなかった。困惑しつつも沙耶子と適当に話を合わせていたが、なぜか電車の中で完全に意識を失ってしまう。目が覚めるとそこは雪が降り積もる竹之山の駅。沙耶子とは合流できたものの、駅には人の気配がまったくなく、時計も午後7時ちょうどで止まっている。周囲を探索する2人は、うつ伏せに倒れた女性の死体を見つける。その死体は腹を切り裂かれているようだった…。

 

 第一章の雰囲気は洒落怖「きさらぎ駅」を彷彿とさせ、なかなか魅力的だ。時間の流れからも取り残された無人の駅。自分たち以外は物言わぬ死体、そして得体の知れない影のような化物が存在するだけの異界…。雪積もる無人の温泉街、という寒々しい風景に、黒い影というシンプルな怪異がよく映える。

 だが正直なところ、中盤以降はあまりいただけない。本作を読んだ人の多くは「ゲームみたい」という感想を抱いているようだが、確かに「死体を調べるとアイテム(情報が書かれたメモ)が手に入る」「影を倒したり目的地に到着したりといったフラグを立てるたび、日向の失われていた記憶が蘇る」「同じシチュエーションを繰り返すループもの」など、一時期流行ったフリーのホラーゲームを彷彿とさせるような展開が多い。実際、日向が異界の竹之山に迷い込んだのは「黒幕が仕組んだゲーム的シナリオ」に巻き込まれているからなのだが、そのおかげであからさまなご都合主義の展開が目立ち、どうにものめりこめない。「4回は多いだろ」とか「さすがに祖父母もどうなのか」とか、読みながらツッコミ入れちゃうもん。せっかくの「ハラサキ」も存在感がどんどん薄れていってしまうのが残念だ。帯などでやたら推されている「ラストの数行」についても、相当早い段階から予測がつくため驚きはない。

 どうにも消化不良な一作だが、帯の有無で印象がガラリと変わる表紙イラストについては賛辞を送りたい。この日向の表情は絶妙である。

★★☆(2.5)

 

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