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作家と編集の絆が生死を超越した存在に打ち勝つ、闇のクリエイター賛歌!-『奇奇奇譚編集部 怪鳥の丘』

『奇奇奇譚編集部 怪鳥の丘』

木犀あこ/2018年/288ページ

霊が見えるホラー作家・熊野惣介は、担当編集者の善知鳥の異動話を耳にしてしまう。善知鳥本人からの説明がないまま、ふたりはいつもの心霊取材へ。廃墟の水族館に現れる巨大未確認生物や、温泉に伝わる不死身の男の噂話を調べていくうちに、「不死鳥の胆嚢」という謎の薬の存在を知る。やがてある記憶がよみがえった熊野は、善知鳥の前から姿を消す―。熊野のデビュー作に隠された謎が明らかになる、シリーズ完結編!

(「BOOK」データベースより)

 

 シリーズでたびたび触れられてきた、熊野のデビュー作「怪鳥の丘」を巡る完結編。主人公・熊野惣介の失われた記憶と、「怪鳥」の真実が明らかになる。

 

 「邪神あらわる」-廃墟の水族館に現れたという白い巨体のUMA、「邪神」を追って現地へ向かう熊野と善知鳥。水族館の所有者・仲国は好人物ではあったが何かを隠しているようなそぶりを見せる。熊野の耳に響く「イァアアアアア」という咆哮、海岸に漂着するグロブスター(肉塊)…。UMAの正体は本当に創作神話の邪神なのだろうか?

 「無限増殖温泉宿」-奇奇奇譚編集部と作家たちが慰安旅行で向かった外の湯温泉郷。そこには、熊野の頭を悩ませるとある出来事と類似性が多い「不死鳥伝説」が遺されていた。到着した宿は増築に増築を繰り返した迷宮のような奇妙な構造をしており、巨大な仏壇の周りをお札がびっしり張られた壁が囲む「孔雀の間」なる怪しげな部屋まである始末。そして熊野は廃墟の水族館のものと同じ咆哮を聴く…。

 「怪鳥の丘」-水族館、そして温泉宿で出会った存在が、失われていた熊野の記憶を呼び覚ました。彼の前に怪鳥がついにその姿を現す。善知鳥にも知らせず、ひとり孤島へと旅に出る熊野。そこはデビュー作「怪鳥の丘」の主人公が、最期を迎えた島のモデルとなった場所だった。封じられた記憶、不死鳥、無数の死する者の咆哮、もう一人の“ソウスケ”…。すべてを悟り、絶望の淵にいた熊野の元へ現れたのはもちろん、彼のもっとも信頼するバディだった…!

 

 ところどころに笑いを交えた文体はたいへん読みやすい。マニア好みの怪奇映画や幽霊談義で話題になりがちなアレの霊についての言及など、ホラー好きの心をくすぐる小道具もふんだんに盛り込みつつ、作中の熊野と善知鳥のコンビのごとく、新たなホラーの地平を拓かんとする気概もビンビンに感じられる一冊。善知鳥のインチキ対霊体質の由来など、まだまだネタは広がりそうなシリーズではあったが、どの巻もまぎれもない傑作で楽しく読むことができた。

★★★★★(5.0)

 

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