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新人作家&ドS編集者の心霊取材。創作者の胸を打つ意外なほどの熱さに痺れる-『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』

『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』

木犀あこ/2017年/240ページ

霊の見える新人ホラー作家の熊野惣介は、怪奇小説雑誌『奇奇奇譚』の編集者・善知鳥とともに、新作のネタを探していた。心霊スポットを取材するなかで、姿はさまざまだが、同じ不気味な音を発する霊と立て続けに遭遇する。共通点を調べるうち、ふたりはある人物にたどり着く。霊たちはいったい何を伝えようとしているのか?怖がり作家と最恐編集者のコンビが怪音声の謎に挑む、第24回日本ホラー小説大賞優秀賞受賞作!

(「BOOK」データベースより)

 

 霊感はあるが臆病な新人ホラー作家・熊野と、霊は見えないがなぜかフィジカルで霊をビビらせ除霊してしまう怪奇小説雑誌編集者・善知鳥が、新作ホラー小説の取材のため各地の心霊スポットを廻り、事件に巻き込まれる…という、基本プロットからしてなかなか興味深いバディもの。日本ホラー小説大賞優秀賞受賞作を改稿した「幽霊のコンテクスト」では、熊野たちが「奇妙な電子音を発して消えてしまう霊」に続けざまに遭遇。外見もシチュエーションも全く異なる霊たちになぜこのような共通点が? …というお話。熊野たちが遭遇する怪異のほか、ホラー小説のネタとしてもいろいろな怪談が登場するのが面白い。走行中の車のフロントガラスに張り付くお馴染みのヤツから、「臭いの幽霊」「味の幽霊」なんて概念も登場する。主人公がホラー作家という設定も効いており、この一連の怪異の原因もクリエイターの心に深く染み入るようなものになっている。続く「逆さ霊の怪」は熊野と善知鳥のファーストコンタクトを描いた過去編。タイトル通りの逆さ吊りになった幽霊にビビり散らかす熊野に対し、スパルタ式の取材を半ば無理矢理に敢行させる善知鳥。そして逆さ吊り霊のあまりにも意外な正体が、熊野のホラーに対する姿勢に影響を与えることになるという、これまた巧みな“第0話”である。
 あまりにも善知鳥のアクが強いのがちょっと気になるが(ほとんどオータム書店)、キャラクター頼りに終わらず、ホラーと創作への真摯な態度が好ましい。シリーズの第一作目としては上々のスタートである。

★★★★☆(4.5)

 

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