『日本ホラー小説大賞≪短編賞≫集成1』
小林泰三、沙藤一樹、朱川湊人、森山東、あせごのまん/2023年/400ページ
ホラー小説の礎を支えた《短編賞》。これを読まなきゃホラーは語れない!
1994年から2011年まで日本ホラー小説大賞に設けられていた《短編賞》部門。賞の30周年を記念し、集成として名作が復活! 玩具修理者は壊れた人形も、死んだ猫も直してくれる――。小林泰三の色褪せないデビュー作「玩具修理者」。「10年に1人の才能」と絶賛された沙藤一樹が描く、ゴミだらけの橋で見つかった1本のテープの物語「D-ブリッジ・テープ」など計5編を収録。《大賞》とは異なる魅力があふれた、究極のホラー短編集!
<収録作品>
小林泰三「玩具修理者」
沙藤一樹「D‐ブリッジ・テープ」
朱川湊人「白い部屋で月の歌を」
森山東「お見世出し」
あせごのまん「余は如何にして服部ヒロシとなりしか」※本書は日本ホラー小説大賞の短編賞受賞作の中から5篇を収録したアンソロジーです。
(Amazon解説文より)
タイトル通り、日本ホラー小説大賞の短編賞受賞作品のアンソロジー。いずれも角川ホラー文庫で既刊の作品である。
小林泰三「玩具修理者」-初の短編賞受賞作品。壊れてしまったおもちゃはおろか、死体をも生き返らせてしまう“玩具修理者”のもとへ死んでしまった弟を連れていく姉…。ラスト数行のどんでん返しが非常に巧く決まっており、ホラー短編かくあるべしという気分にさせてくれるまごうことなき傑作。
沙藤一樹「D‐ブリッジ・テープ」-やや長めの中編に近い作品。ゴミに埋もれた橋のたもとに捨てられた少年が、野生の生物を喰らい、ゴミを利用し、ただひたすら生きるためだけにもがき、喘ぎ、吠える。プリミティブな青春の“怒り”が全編に溢れており、読む者の心を打つ。
朱川湊人「白い部屋で月の歌を」-自らの身体の中、“白い部屋”に霊を取り入れることで除霊を行える少年。彼は少々うさんくさい霊能力者のもとでアシスタントとして働いていたが、とあるクライアントの少女に恋をしてしまう…。そのままシリーズものに出来そうなほどに存在感のあるキャラクターたち、卓越した描写力、美しくも残酷な幕切れが印象的。
森山東「お見世出し」-舞妓としてデビューするべく稽古に励んでいた主人公だが、自分が30年前に自殺した才能ある舞妓見習いとそっくりであることを教えられ…。全編、雅な京言葉の一人称で語られており、“異界”として眼前に広がる京の都がなんとも味わい深い。
あせごのまん「余は如何にして服部ヒロシとなりしか」-かつての同級生、服部ヒロシの姉と再会した主人公は、服部家で夕飯を食べ、風呂に入っていくことになる。隙間だらけで水など入っていない、緑色に塗られた風呂桶に…。庭の木の枝には人糞が吊り下げられ、畳にはガラス片が巻かれ、聖餐として人魚が供される服部家。いったいここでは何が起こっているのか…? シュールでエロチック、そして果てしなく不気味な汚怪作。
各作品は間違いなく傑作揃いだが、せっかくのアンソロジーなのだから気合の入った解説が読みたかったところではある。当時の選評を部分的に再録するだけでは物足りない。
★★★★☆(4.5)