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平穏なき魂vs霊媒師、満足死の自由がある町…。静謐さがリアリティを生む傑作2編-『白い部屋で月の歌を』

『白い部屋で月の歌を』

朱川湊人/2003年/304ページ

ジュンは霊能力者シシィのもとで除霊のアシスタントをしている。仕事は霊魂を体内に受け入れること。彼にとっては霊たちが自分の内側の白い部屋に入ってくるように見えているのだ。ある日、殺傷沙汰のショックで生きながら霊魂が抜けてしまった少女・エリカを救うことに成功する。だが、白い部屋でエリカと語ったジュンはその面影に恋をしてしまったのだった…。斬新な設定を意外なラストまで導き、ヴィジョン豊かな美しい文体で読ませる新感覚ホラーの登場。第十回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作。

(「BOOK」データベースより)

 

 表題作「白い部屋で月の歌を」は、憑霊体質である主人公の一人称視点で進む。歩くことがままならないほどの病弱体質で過去の記憶も無く、「海」を知らないなど知識にも偏りがある彼は、どうにも俗っぽいが能力はホンモノのおばさん霊能者、ロクデナシのその弟と組んで除霊を行っている。設定だけならシリーズものになりそうなほど濃いのだが、個性的なビジュアルの除霊シーンや、人間離れした主人公の内面描写にリアリティがあり、説得力を持つ。詩的な独白ですら様になっており、この文章力には舌を巻くばかり。美しくも残酷な幕切れもすばらしい。

 「鉄柱(クロガネノミハシラ)」は地方都市に左遷された夫とその妻の話。「世界でいちばん幸せな町」と住民らが語るこの町には、2メートル半ほどの高さの、逆L字に曲がった太い鉄柱があった。住民たちは人生の絶頂期にこの柱で自ら首をくくり、安楽死ならぬ「満足死」する権利があるのだという…。いわゆる「奇習はびこる田舎ホラー」とは趣がちがい、あくまで満足死するのは本人の希望であって、そこに他人からの強制は一切無いし、なにか超自然的な存在の暗示があるわけでもない。ここがまたリアルな設定で、町の人々が幸せに暮らしているのもまた事実なのだ。主人公は偶然「満足死」の現場を見たことで驚愕し、さらに満足死の立ち会い(偽装殺人を避けるため、同意を得た立会人が必要になる)の現場に駆り出される。違和感を感じつつも正面切って反論できない主人公だが、最後にはある行動に…。

 収録されている2編とも圧倒的なクオリティで、ラストも強い印象を残す。必読。

★★★★★(5.0)