『らせん』
鈴木光司/2000年/432ページ
幼い息子を海で亡くした監察医の安藤は、謎の死を遂げた友人・高山竜司の解剖を担当した。冠動脈から正体不明の肉腫が発見され、遺体からはみ出た新聞紙に書かれた数字は、ある言葉を暗示していた。…「リング」とは?死因を追う安藤が、ついに到達する真理。それは人類進化の扉か、破滅への階段なのか。史上かつてないストーリーと圧倒的リアリティで、今世紀最高のカルトホラーとしてセンセーションを巻き起こしたベストセラー、待望の文庫化。
(「BOOK」データベースより)
前作『リング』のラストで、呪いから逃れられず死亡した高山竜司。彼の死体は友人の安藤満男の手によって解剖されたが、安藤は竜司の教え子だった高野舞と出会い、竜司の死の間際に起きた不審な出来事について知る。さらに前作の主人公・浅川は、妻と娘の死にショックを受け廃人となっていた。浅川の妻と娘の遺体に、竜司と同じく血管内の腫瘍、咽喉部の天然痘に似た潰瘍が生じていることを知った安藤は、浅川が残した原稿『リング』を読み、「呪いのビデオ」のことを知る。そのころ、舞はすでに竜司が遺したビデオを観てしまっていた…。
呪いを巡るオカルトものだった『リング』とは異なり、本作は医学ネタ強めのSFホラーである。次々と提示される謎により展開していく物語の緊張感は、前作ほどのスピード感は無いものの(なにせ今回はタイムリミットが曖昧だ)なかなかのもの。ビデオの呪いを解いたはずの浅川の妻と娘はなぜ死んだのか。呪いを解くオマジナイは「ダビングして人に見せる」ことではなかったのか(これについては作中で「1か月で4本しか増えないのは悠長過ぎる」とセルフツッコミを入れられている)。姿を消した高野舞はどこへ行ったのか。竜司の血液中のウイルスに発見されたDNAの暗号とは何なのか。舞の部屋を訪れた見知らぬ女性は誰なのか。これらの謎すべての行きつく先が、本作でさらなる進化を遂げた「呪いのビデオ」なのである。
『リング』が大ヒットし、以降様々な媒体で「貞子」がジャパニーズホラーを代表するアイコンとして増殖し続けているのは皆さんご存知の通り。大ヒット作の続編という高いハードルを課せられた『らせん』だが、『リング』自体を内包することで神話にも近い物語を創造したと言える。前作とはホラーの質があまりにも変化していたり(映画版『らせん』はパッとしなかったが、もともと映像的な題材ではないと思う)、暗号関連の展開がいくらなんでもサービス精神過多だったりと、物語的に気になる部分もなくはないが、「『リング』の続編」としては完璧中の完璧だ。本作の存在をもってリングウイルスは究極の形として完成してしまったのだ。
★★★★★(5.0)