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大都会の真ん中で、人足途絶えた山奥で…。ひっそりと佇む死した物件を巡る廃墟フォトエッセイ-『廃墟霊の記憶』

『廃墟霊の記憶』

文:板橋雅弘、写真:岩切等/2002年/190ページ

幽霊ホテルという名と日本初のダイナマイト爆破で90年代に一躍その名を馳せた琵琶湖畔の木の岡レイクサイドホテル。30年以上運行されていない横浜のドリームモノレールなど、一度見たら決して忘れられなくなる数々の廃墟の見えざる姿に迫る。何十年もの間、人から忘れられてきた廃墟が奏でる言葉を超えた鮮烈なビジュアル。それらは我々に本当のホラーを教えてくれる。
朽ち果てたもの全てに捧ぐ鎮魂歌。

(裏表紙解説文より)

 

 1992年に刊行された『失楽園物語』に書き下ろし・撮り下ろしの特別編を加えた文庫版。本書では15件+αの廃墟物件たちが紹介されている。廃業間近の旅館鮎ケ瀬荘(栃木県那須郡)、日本初の爆破解体が行われた木の岡レイクサイドビル(滋賀県大津市)、大阪駅から歩いて5分の大都会ど真ん中にある廃校・堂島小学校(大阪府大阪市)、1973年から放置されていた関谷インターチェンジ(神奈川県鎌倉市)、返還された米軍接収地の中にあった根岸競馬場(神奈川県横浜市)、駅前の再開発によって廃業せざるを得なくなった映画館三鷹オスカー(東京都三鷹市)、消えつつある東京の銭湯の1つ・松の湯(東京都港区)、20年以上ものあいだ放置されてきたドリームモノレール(神奈川県横浜市)、経営陣のごたごたに巻き込まれた宗教テーマパーク大滝ランド(静岡県西伊豆町)、のちに湧出した温泉で健康ランドとなった帝産大仁金山(静岡県修善寺町)、「幻のホーム」として有名な新橋駅CD線ホーム(東京都港区)、管理者不明で荒れ放題のミイラ化病院こと相模外科(神奈川県相模原市)、「愛国から幸福へ」の切符がブームとなった幸福駅(北海道帯広市)、南海ホークスの本拠地大阪球場(大阪府大阪市)、宇宙友好協会なるよくわからん組織によって建設されたハヨピラ公園のUFO神殿(北海道平取市)。特別話では10年ぶりの廃墟めぐりとして、著者2人が1993年に開通した関谷インター、ドリームモノレール跡地を訪れている。

 2000年代初頭の廃墟ブームの中で復刊された本書だが、単に廃墟のエモい写真を載っけてポエムみたいなことを呟いているのではなく、綿密な取材をしたうえで、物件が廃墟となるまでの背景をしっかり解説してくれているのがありがたい。ひなびた山奥の廃墟ももちろんあるが、都市のど真ん中にある廃墟も多く取り上げられているのも特徴だ。個人的にはもうちょっと大きい版で写真を見たかったとも思うが、さまざまな「物件の死」をしみじみと味わえる一冊である。ちなみに序盤のページ左隅では、木の岡レイクサイドビルの爆破解体の様子をパラパラ漫画で再現している。

★★★(3.0)

 

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