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最後までホラー要素が皆無なので逆に驚愕するSM官能小説-『わたしの調教師』

『わたしの調教師』

大石圭/2015年/256ページ

生真面目な女子大生の水沢琴音は、青年実業家・白石周平の秘書のアルバイトを始めた。琴音は優しく無邪気な周平に惹かれ、やがて愛人になる。そして初めての夜、周平は言った―「君を性的に調教したい」。戸惑いつつも、淫乱な「もう一人のわたし」に気付いていた琴音は彼を受け入れ、「調教」はエスカレートしていく。しかし、欲望と愛情で結ばれた二人を待ち受けていたのは、あまりにも残酷な運命で―。

(「BOOK」データベースより)

 

 地味で真面目なメガネ女子大生の琴音は、バイト先の青年実業家・白石の愛人となる。白石には実は嗜虐趣味があり、「君を性的に調教したい」と琴音に迫るのであった。普通ならここで逮捕されるのだが、琴音も実は被虐趣味があったので2人の仲はSMプレイを通じてズブズブに深いものに。まずはイラマチオと首輪プレイに始まり、「これを一週間お尻に入れっぱなしにしなさい」と巨大なたけのこの里のようなアナルプラグを渡される。さらには飲尿に拘束プレイ、蝋燭に鞭打ちなど…。なんだかわりと新鮮味の無いプレイばかりのような気もするが、とにかく琴音は完全に調教されてメロメロに。しかし白石は実は癌に冒されており、余命一年もないのであった。残酷な運命を知り、ケツにたけのこの里を刺してまで白石に尽くしてきた琴音は号泣するのであった。でも最後はなんとなくいい話のような雰囲気で終わるのであった。

 小説の内容がどうこう以前に、いくらなんでもここまでホラー要素の無い作品を角川ホラー文庫に入れるのはさすがに違うのではないかという気がする。確かに大石圭の小説は官能的・SM的な描写こそ多いが、他の作品は形こそ違えど、しっかりと「恐怖」を描いていたはずだ。変態プレイに身を投じてまで快楽を得ようとするのは、死の運命に捕らわれた人間の行動としてはあまりに前向きかつアグレッシブ過ぎるし、サイコホラー的な機微も感じられない。

★★(2.0)

 

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