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全部読めるといいですね。読んだ上で、おすすめしたい作品は全力で推します。

俳句ホラー、漢字ホラーとしても秀逸な文字フェチ怪談。すきまから這いよる存在に聖域修復師が立ち向かう-『すきま』

『すきま』

倉阪鬼一郎/2008年/270ページ

手狭になったマンションを引き払い、思い切って一戸建てを購入することにした間庭夫婦は、郊外に中古物件を見つけた。その家は限られた予算の範囲内では破格の好条件だった。一人娘のあかりもだんだん大きくなる。念願の猫も飼える。富士山が良く見えるきれいな部屋、リフォームは何かを根こそぎ変えようとする意志すら感じられるほど細やかだった。そしてそこには、すきまが―あった。その家では何かが、確実に狂って…。

(「BOOK」データベースより)

 

 前作『うしろ』と比べると、「すきま」という3文字への言及や考察は偏執的というほどではなく、ややあっさりめ。本作は「‟すきま”への恐怖」「狂人への恐怖」「呪われた家への恐怖」「人知をはるかに超えた存在への恐怖」等が混ぜこぜになっており、それに加えて実在するものと作者オリジナルのものとを含む「怖い俳句」、外観内面ともに「禍々しい漢字」、そしてヒーロー然とした聖域修復師の青年・八神宇鏡が読者に強烈な印象を残すため、取っ散らかった印象を受けると同時に妙な満足感がある。ラストの対決シーンは正直なところすでに目新しさを感じない表現だが、この世ならざる「いくさ」を描く手段としてはアリではなかろうか。

 俳句や漢字への言及、事件に巻き込まれる一家の父親の職業が校閲者である点など、相変わらず作者・倉阪鬼一郎の趣味や人となりがストレートに現れているのも興味深い。氏の校正者時代のムチャクチャエッセイ『活字狂騒曲』、書名そのものの内容『怖い俳句』なども併せて読めばより楽しめるかもしれない。

★★★☆(3.5)