『黒い楕円 美術調律者・影』
倉阪鬼一郎/2012年/315ページ
自らの作品を呪物と化し、人々を襲った異端の芸術家・黒形上赤四郎。青年画家・影と幼馴染みの光、明兄妹はかろうじてその悪意を退けたが、また新たに不穏な情報がもたらされる。“黒い楕円”をモチーフとした黒形上の回顧展が開催されるというのだ。観客への影響を懸念する影たちだったが、新たな悪夢はより巧妙な形で日常の中にまで仕掛けられていた……。美貌の天才画家たちによる絢爛たるアート・ホラー、第2弾!
(裏表紙解説文より)
異様極まる作品で人々の心身を呪う闇の芸術家、黒形上赤四郎の回顧展が開かれることになった。仕掛け人は有名デザイナーの日限月介。彼もまた、黒形上の熱烈な崇拝者であり、黒形上が愛したモチーフ「黒い楕円」を数々のデザインに紛れ込ませ、社会に混乱をもたらそうとしていた。
かつて黒形上は凄惨な事件を起こし、頭部と心臓が見つからない状まま姿を消した。そのひとり息子である青年芸術家・形上影は、黒形上が何らかの手段で復活を目論んでいることを確信していた。影は幼馴染みの美島光、美島明の兄妹とともに回顧展へと向かう。その頃すでに、「黒い楕円」の呪物は世の中に浸透しつつあった…。
「黒形上の信奉者が、黒形上作品のモチーフを社会に潜ませて呪術テロを行う」というあらすじは、前巻『赤い球体』とほとんど同じ。黒形上に立ち向かう意志はあるものの何もできない影、表紙に抜擢されながら相変わらず活躍が少ない光と明、勝手に自滅する黒幕といった、続き物のキャラクターノベルにしてはカタルシスに欠ける点もいっしょである。
しかし、前巻よりもグロテスクな描写が抑えられているにも関わらず、「怪奇小説」としては今巻のほうがスリリングだ。まず、個展で次々と紹介される黒形上の偏執的かつ異様極まる作品群の描写が良い。不穏さがあふれ出す絵画、心の歪みがそのまま現れたかのような彫刻、悪趣味に満ちた凄惨な映画、内面の狂気を叩きつけたような詩…。本シリーズの実質的な主人公が黒形上であることにようやく気付かされた。「黒い楕円」というモチーフがいかに世の中に溢れているかを描くパートも作者らしさが溢れている(もっと偏執的にやってほしかった気もするが)。
圧倒的なエゴと激情を発露し続けた黒形上は、裏岡本太郎とでも言うべき圧倒的な“負の芸術の巨人”である。影が黒形の息子であることが明かされ、常に「自分」しか表現しない黒形上と、調律した「世界」を描く影との対立が効いている。個人的には今巻から読み進めてもじゅうぶん楽しめるのではと思う。前巻の呪術テロの惨憺たる描写も捨てがたくはあるが。
★★★(3.0)

