『人形の墓 美内すずえ作品集』
美内すずえ/1994年(復刊:2023年) /432ページ
『ガラスの仮面』の美内すずえの初期のホラー傑作短篇!
「黒百合の花が咲くとき、誰かが死ぬ」。不吉な”黒百合伝説”の影に脅かされる少女・安希子。そして彼女はこの呪われた家計の最後の一人だった。怨霊と少女との息づまる闘いを描いた「黒百合の系図」。事故で夫を、病気で娘を失ったリー夫人は、人形を車椅子に乗せセーラと呼び、まるで生きている娘のように接していた。そこにもらわれてきたアナベルが徐々にリー夫人の心を癒していくと……人形の呪いを描いた哀しくもせつない「人形の墓」ほか、揺れ動く少女たちの恐るべき残酷性とロマンを綴る傑作四編を厳選収録。
(Amazon解説文より)
さすがは大御所というべきか、どの作品も非常に読みやすい。しっかり恐怖を煽ってくれると同時に、細かいギャグも入れて陰鬱になり過ぎないようバランスを取っているのも上手い。「黒百合の系図」は、かつて鬼姫と呼ばれた戦国時代の姫様の祟りにまつわる伝奇ホラー。「泥棒シンデレラ」はクラスメイトの美貌や才能をうらやみ、欲しいと思ったものをなんでも奪ってしまえる能力を得た子の話。表題作「人形の墓」は、娘を無くした母親の狂気的な愛情を一身に受けた人形がいつしか意志を持って…というよくある話だが、養女である主人公の献身的な姿に母親が正気を取り戻すさまは感動的。
ラストを飾る「孔雀色のカナリア」は、裕福な養父母のもとで暮らす生き別れの双子の妹を殺害し、成り済ましを図る主人公のピカレスクロマン。完璧に思われた計画が、貧しかった時代に面倒を見てくれた兄のような青年、生前の妹のボーイフレンド、新たな学校で出会った不良美少年…といった、少女漫画なら憧れの相手になりそうな彼らによって少しずつ瓦解していく様は非常にスリリングで読みごたえがある。本書の中でも随一の傑作。
★★★☆(3.5)