『赤い球体 美術調律者・影』
倉阪鬼一郎/2012年/331ページ
巷で“赤い球体”を見た人々が自我を失い、凶事を起こす事態が発生。それは人気アイドルグループM13の新曲に使われた、ある呪われた芸術作品が原因だった。天才的な美術感覚を持つ青年画家・影は、幼馴染みの光、明兄妹の力を借りながら呪物の出所を捜すことに。呪いで歪んだ世界の色を「視る」ことで、黒幕を見つけ出そうとする影だが、悪意は次第に脅威を増してゆき……! 青年芸術家たちの絢爛たるアート・ホラー、開幕。
(裏表紙解説文より)
己の画家としての才能に見切りをつけた渋沼深は、大人気アイドルグループ「M13」のプロデューサーとして成功を収めていた。渋沼は暗黒の芸術家・黒形上赤四郎に心酔しており、M13のアルバムジャケットや新曲の中に、密かに黒形上の作品を紛れ込ませていた。その忌まわしい芸術は大衆の心を侵食し、“赤い球体”を目にした人々が突発的に殺人や自殺を引き起こす事件が、次々と発生していた。
繊細な青年画家・影は、現実の光景をキャンバスのようにとらえることで、まだ描かれていない世界を「視る」ことができた。警視庁で霊的国防を担当する橋上は、続発する凶悪事件を黒形上の芸術を悪用した呪物によるものと断定し、影の身元引受人である画廊経営者・三島孝とその一家に協力を要請する。影は、幼馴染みの三島光・明の兄妹とともに、自らと因縁深き黒形上赤四郎の呪われた芸術を追うのだった…。
見るものを狂気に陥らせる暗黒の芸術、というテーマが良い。達者な文章で紡ぎ出される「常軌を逸した絵画」の数々はまさに悪夢的。景気よくグロテスクにポンポン人が死んでいく様も悪くない。ただ、キャラクターノベルとして見ると、主人公・影の活躍がやや物足りない。彼がコミュ障気味でエキセントリック、かげろうの如く繊細な人物であることはわかるのだが、「現実を絵のように視る」という異能が具体的にどう機能しているのかが曖昧で、イマイチ掴みきれない。オカルトのエキスパートである警視庁の特殊課、経済的・精神的に手厚くサポートしてくれる画廊一家といった後ろ盾が多すぎて、影は主人公というより「庇護される存在」としての印象が強い。事件の元凶である渋沼との決着も消化不良気味。キャラクターと舞台設定の提示を優先させた“第1巻らしい導入編”といった印象である。
★★☆(2.5)

