角川ホラー文庫全部読む

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日本ホラー界の歴史を塗り替え、いまだ増殖し続けるシリーズの原点。すべては貞子の遺志のままに-『リング』

『リング』

鈴木光司/1993年/331ページ

同日の同時刻に苦悶と驚愕の表情を残して死亡した四人の少年少女。雑誌記者の浅川は姪の死に不審を抱き調査を始めた。―そしていま、浅川は一本のビデオテープを手にしている。少年たちは、これを見た一週間後に死亡している。浅川は、震える手でビデオをデッキに送り込む。期待と恐怖に顔を歪めながら。画面に光が入る。静かにビデオが始まった…。恐怖とともに、未知なる世界へと導くホラー小説の金字塔。

(「BOOK」データベースより)

 

 おそらく角川ホラー文庫で最も有名な一冊。「この『リング』って本、オモシロいよ~」と紹介するのも今さらだが、久々に読み返すとやはり猛烈に面白いのであった。本書が角川ホラー文庫創刊ラインナップとして刊行されたことには奇跡的な運命すら感じてしまう。

 

 あらすじや設定はもう説明する必要も無いと思われる。改めて原作を読むと、おそらくは映画版の影響が強いと思われる一般的な『リング』のイメージと、ちょいちょい差異があることに気づかされてなかなか新鮮だった。

 『リング』と言えば最初に頭に思い浮かべるだろうと思われる、「貞子がテレビから這い出して来るシーン」は原作にはない。「呪いのビデオ」の映像にも、これまた有名な「古井戸」は原作では映っていないにはない。抽象的な映像、ニュースのような写実的映像が混然となった「意味は分からないけど不安を掻き立てるもの」…という要素自体は、映画版の呪いのビデオでもよく再現されていた。YouTubeなどで見られるホラー系のフェイクドキュメンタリーとはかなり印象が近いが、実際のところ、あの手の映像に呪いのビデオの影響はどれくらいあるんだろうか。

 映画版と原作小説版との差異は多く、主人公の性別だとか貞子のふたなり設定だとかいろいろあるが、もっとも大きいのは謎解き・ミステリ要素の有無である。原作小説版は、ビデオを観てから1週間後の死を回避するため、呪いのビデオの断片的な映像から「ここに写っているのは何なのか」「これを撮影したのは誰なのか」を必死の想いで調査・推理していく様がたいへんスリリングで面白い。ホラーであると同時に、一級のエンターテインメント作品である。一方、映画版では主人公の相棒・竜司(小説版では悪友、映画版では別れた夫)を超能力者という設定にして謎解き部分をショートカットしている。これはまあ尺を考えれば仕方ないことかもしれない。

 ご存知の通り『リング』は小説・映画ともにヒットし、以降も小説、映画、漫画、テレビドラマ、ラジオドラマ、ゲーム、パチンコとシリーズ作品は増殖を続け、今なお新作が登場している。本作で生み出された“化物”が今なお増殖を続けているという事実、それ自体が貞子が、そして本作自身がホラー界の伝説として語り継がれる理由でもあるのだ。

★★★★★★★(outstanding)

 

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