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常世をも凌駕するホラークリエイターの意地と矜持を見よ!-『奇奇奇譚編集部 幽霊取材は命がけ』

『奇奇奇譚編集部 幽霊取材は命がけ』

木犀あこ/2018年/228ページ

霊が見えるホラー作家の熊野惣介は、怪奇小説雑誌『奇奇奇譚』での連載を目指して、担当編集者の善知烏とネタ探しを続けていた。フィクションの存在のはずの怪人、さびれた大観音像の内部に棲みついた霊、不遇のアーティストが死を遂げた呪いの屋敷…。ついに連載が実現しようとしたとき、ひるんだ熊野に対して善知烏が「欲がなさすぎる」と怒り、ふたりは険悪に。熊野が胸に秘めている、“書かなければならない理由”とは?

(「BOOK」データベースより)

 

 霊が見える怖がりホラー作家・熊野と、霊が見えないメチャ強編集者・善知鳥が究極のホラーを書くため幽霊取材に出かけるブロマンスもの。「クリエイターの矜持」が根底にあり、様々な怪奇作品への言及など、ホラー作家という属性をフルに活かした作風。作品内に登場する霊の描写もユニークだ。

 「惑星怪人エヴィラ」-今なお続く人気ヒーロー番組アルティマン初の劇場版にして、あまりに陰惨な内容で物議を醸したカルト作品「惑星怪人エヴィラ」を半ばムリヤリな形で見せられてしまった熊野。その日から、熊野の前に本物のエヴィラが姿を現すようになる。人の恐怖を喰うという宇宙怪人が実体化したのだろうか…? 「特撮番組好き」という、善知鳥の人間的な一面が珍しく描写される話。
 「ひざのさらおいてけ」-善知鳥と共に同年代のホラー作家、安達原に会いに行くことになった熊野。安達原は穏やかな好人物であったが、「誰にも批判されない、すべての人間を納得させる完璧な作品」を書くことに執着している変人でもあった。その後、安達原とさびれた巨大観音像を見学に行く熊野だが、彼らの前に邪霊「ひざのさらおいてけ」が現れる。それは決して手に入らないものを求め続け、死してなお何処へも行けなくなった人間の成れの果てだった。
 「不在の家」-山奥の巨大な屋敷に引きこもり、狂気的な芸術作品を作り続けたアウトサイダーアーティスト・渡会ヱマ。過去に渡会の家を訪れた大物小説家、書家、詩人はいずれも奇妙な死を遂げたという。
 熊野と善知鳥、奇奇奇譚編集部の新人・井筒の3人は通称“不在の家”と呼ばれるくだんの廃墟を訪れるのだが、正体不明の存在に触れたことにより熊野は昏倒してしまう。だが予想されていた渡会の霊の気配はどこにもなかった。不在の家に在るものとはいったい何なのか…? あまりにスケールの大きな幽霊屋敷という魅力的な怪異に加え、「霊が見える人間の死生観」という多くの作品ではうやむやにされがちな点にスポットを当てているのも面白い。

★★★★☆(4.5)

 

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