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怪談を語る者としての矜持が垣間見える、エッセイとしても上質な1冊-『船玉さま 怪談を書く怪談』

『船玉さま 怪談を書く怪談』

加門七海/2022年/288ページ

海が怖い。海は死に近いからーー。山では、「この先に行ったら、私は死ぬ」というような直感で足がすくんだこともある。海は、実際恐ろしい目にあったことがないのだけれど、怖い。ある日、友人が海に纏わる怖い話を始めた。話を聞いているうちに、生臭い匂いが立ちこめ……。(「船玉さま」より)
海沿いの温泉ホテル、聖者が魔に取り込まれる様、漁師の習わしの理由、そして生霊……視える&祓える著者でも逃げ切れなかった恐怖が満載。
「"これ本当に実体験! ?"と驚くことばかり。ぞくぞくします。」 高松亮二さんも絶賛の声! (書泉グランデ)
文庫化にあたり、メディアファクトリーから刊行された『怪談を書く怪談』を『船玉さま 怪談を書く怪談』に改題し、書下ろし「魄」を収録。解説:朝宮運河

(Amazon紹介文より)

 

 作者自身が語る怪談実話エッセイ。正直なところ、作者の実体験中心の怪談実話は伝聞系のものと比べて客観性に欠けがちというか、「あんたの心づもり次第やんけ」とツッコミたくなることが多くて苦手なのだが、本作は(そういう点がゼロではないにせよ)、語り口のうまさとエッセイとしての面白さのおかげで楽しく怖がることができる。「浅草純喫茶」はそのまま純喫茶に出かけたくなるような名文章で、永井荷風への言及がいいアクセントになっている。「茶飲み話」は近所のウワサを母・知り合いのおばさんを交えて語る文字通りの茶飲み話だが、作者の怪談へのスタンスー他人の不幸を怪談として消費することへの懸念などが垣間見えて興味深い。

 沖縄が舞台の短編「島の髑髏」は、しゃれこうべを被ったヤドカリというインパクトある絵ヅラから始まり沖縄ならではの死生観を描く。「とある三味線弾きのこと」はオーソドックスな器物怪談でありながら、個人的にはあまり身近でなかった三味線について理解が深まり面白く読めた。こうした様々なカルチャーへの言及がそこかしこに散りばめられているのもエッセイの良さである。

★★★☆(3.5)

 

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