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人が住む場所には霊も棲む。‟見える人”視点の怪談エッセイ-『たてもの怪談』

『たてもの怪談』

加門七海/2024年/272ページ

元祖たてもの怪談。加門七海の場所にまつわる最恐怪談実話。

「建物」にまつわる怪しい話が満載の怪談実話集。自身の引っ越しにまつわる不思議な話やオカルト的蘊蓄満載の「引越物語」、自宅での恐怖体験、訪れた文化財で出会った“この世ならざるモノ"、東京都庁などの最新風水事情考察など、加門七海ならではの怖い怪談実話。文庫化にあたり、子供時代を過ごした町にある、増改築をした奇妙な家の物語「建物かいだん」を書きおろし。

(Amazon解説文より)

 

 幽霊物件、神社、お化け屋敷に都庁まで、あらゆる「たてもの」についての実話怪談…というよりはエッセイ風の読み物といったほうが近いかもしれない。

 「道の話――終わらない話」は、触れた家すべてが不幸に見舞われる‟見えない道”の話。「幽霊文化財」は、特に曰くのないはずの「古い建物」でも霊が観測されてしまう理由についての考察。「ホーンテッド・スウィート・ホーム」はドえらい旧家に住む霊感持ちの友人の話。もちろんその家自体も普通ではなく…。「夜遊び好き……らしい」では、作者がたまたま寄った神社で聞いたあまりにフレンドリーな氏神様の話。短いながらも印象深く、「土着の神」っぽさが微笑ましい。本書の中でも拾い物。

 「ひとり旅の醍醐味」は文字通り、ひとり旅の最中に遭遇したとある有名妖怪の話。「お化け屋敷の話」では、造り物のオバケしかいないはずのお化け屋敷が霊的にも怖い…という話。「在宅怪談」は「くつろぎの場」であるはずの自宅を襲う怪異と、それにホウキ で立ち向かう作者の話。

 「引越物語」は文字通り、引っ越しを考える作者の物件選びと、やはりというかなんというか起きてしまった怪異についての話。全14回のウェブ連載をまとめたもので、本書の中ではもっとも長いエピソードになるが、悪い意味でエッセイの気安さが出てしまっているというか、霊感のない人や霊についての「当たりの強さ」が垣間見えてしまって、正直言って好きではない。「東京の『顔』――風水の話」は東京都庁舎の立地と構造を風水的に検証する…というものだが、こういうのは図版がないと少々わかりにくい。角川ホラー文庫で言えば「シム・フースイ」シリーズの『東京チャンスン』はまさに都庁と風水の話だったなあ。文庫版書き下ろし「建物かいだん」は、奇妙な構造と‟階段”を持つ屋敷に住む一家を見舞う不幸の連鎖を描く。

 

 『船玉さま』もそうだったが、霊感があることを「普通」という前提で描かれているため、いわゆる「実話怪談」とはまた異なるテイストである。私事ではあるが最近、副作用として悪夢を見る」という睡眠導入薬を飲んだ夜などは、金縛りと共に「この世のものではない何物かの接近」を感じることがたまにある。これまでそういう体験をしたことが皆無だったため、「霊感持ちを自称する人って、こういうのを常に見ているのかもな」と、(勝手に)解像度を深めていた折だったので以前とはまた違った感覚で読めた。ただ、『船玉さま』では作者の主観が出過ぎないよう気を配られていたのだが、本書の「引越物語」以降のエピソードはどうもその辺のバランス感覚が欠けているように感じる。どうも後半はのめり込めなかったというのが正直な感想。

★★☆(2.5)

 

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