『文藝百物語』
東雅夫(編)/2001年/306ページ
黄昏時。根津の路地裏に佇む古びた旅館。迷路のような廊下を辿り、ある一室に赴く八つの人影。結界が張りめぐらされ、蝋燭が灯されたその部屋で、彼らは深まる夜のなか、次々と怪異体験を語り始める。百話を完結させるとよからぬことが…と言伝えられる百物語怪談会。鬼気迫る一夜を本書で史実に再現。読む者もおそらくその禍禍しい掟から無縁ではいられない。稀代のホラー作家八人による驚愕の怪談実話集。
(「BOOK」データベースより)
ホラー作家8名により行われたガチ百物語の実録集。参加者は井上雅彦、加門七海、菊地秀行、篠田節子、霧島ケイ、竹内義和、田中文雄、森真沙子という豪華メンバーである。収録されているのは99話だが、怪談会は大いに盛り上がったあげく10時間を超え、実際は130話近くが語られたとのこと。「100話目を語ると幽霊が出る」と言われているのに、そんなにオーバーして大丈夫なのか(笑)。
後に行われた同様の企画『女たちの怪談百物語』と異なり、今回は話者によってかなり披露した話の数に差があるのだが、加門七海が語ったのは99話中34話とぶっちぎりであった。凄すぎる。個人的にMVPだと感じたのは竹内義和で、第三十三話「丑の刻参りの女」はおなじみの都市伝説じみた話ではあるが怖さで言えば本書の中でぶっちぎりである(菊地秀行も今回の最恐話として挙げていた)。現実的なオチはつくが怪談としてよくできている第六話「笑い声がついてくる」、おなじみ「山の牧場」のオリジンというか派生話である第二十五話「鬼伝説の山で」など好みな話が多かった。短いがゆえのキレの良さでは菊地秀行の第六十話「のっぺらぼう」、森真沙子の第八十話「釣りの怪談」にもぞっとさせられた。田中文雄は披露した話こそ少ないものの、第二十六話「猫を焼く」はその語り口の良さと後味の悪さが印象深い。
99話目のあとには「百話目に変えて」と題し、参加者たちの本百物語会についてのエッセイが収められている。会場で起きていた奇妙な出来事や菊地秀行の奇行(?)なども知ることができ、これがまた楽しい。ちょっとした怪異はあったものの100話を越えても霊は出なかったし、参加者も霊障などはなかったとのことでめでたしである。巻末には今回欠席だった竹河聖の特別寄稿、立会人にて編者の東雅夫による付記も収録されている。
★★★(3.0)

