『女たちの怪談百物語』
幽編集部(編)、東雅夫(監修)/2014年/326ページ
古い旅館、月明かりさえ届かぬ地下室。女性作家10人が集った。風が通るはずのない密室で、ろうそくの火が揺れる。誰もいない廊下から、誰かが覗く気配がする。心底恐ろしい百物語会99話を完全再現。
(Amazon解説文より)
2010年5月3日の夜、某旅館の一室にて行われた百物語を紙上再現。加門七海、長島槇子、三輪チサ、立原透耶、伊藤三巳華、神狛しず、岩井志麻子、宍戸レイ、勝山海百合、宇佐美まことの10名に加え、見届人として京極夏彦、会主として東雅夫も同席する。いにしえの作法に則り、終了までは一切の人の出入りと、物語以外の発話は禁じられるという。語り手は女性作家のみという試みのもと行われる、今宵の怪談会で披露された物語とは…。
角川ホラー文庫でも「百物語」系の本は多い。「現代百物語」シリーズに「無惨百物語」シリーズ、ベテラン福沢徹三の『黒い百物語』…。「怪談狩り」シリーズも初期は「市朗百物語」と称して百編が収められていたし、百物語を題材にしたホラーのアンソロジー『闇夜に怪を語れば』なんてものもある。しかし、形式に則って実際に百物語を開催する…という企画は意外と少ない。角川ホラー文庫では、本書の他にはホラー作家8人が参加した『文藝百物語』があるくらいである。
本書に収められている怪談には「死んだはずの人が実は…」みたいなベタなものも少なからずあるが、それぞれの語り口は雰囲気じゅうぶんで、リアルな「百物語」の追体験としては完璧である。参加者それぞれが10話ほどを語ることになるが、ターンが進むにつれておなじみの登場人物やエピソードが出てきたりして、人となりが見えてくるのが興味深い。九十一話以降は「最後のとっておき」とばかりに、一気に怖面白い話ばかりとなるので感心してしまった。やっぱラストはイイ話取っておきたいよね。
岩井志麻子の第七話「ある女芸人のマネージャーの話 その一」や第九十七話「ある自称やり手編集者の話」、加門七海の第五十一話「靖国神社の話」や第九十一話「ハワイでの話」などは流石に面白く、この2人はやはり巧いという感想。個人的には第八十話「異界への通路」(宇佐美まこと)や第八十三話「緑の庭の話」(三輪チサ)のような異世界モノというかトワイライト・ゾーンもの、第十五話「ガチョウの歌」(伊藤三巳華)や第五十四話「赤い絨毯」(立原透耶)などの‟霊とか関係ないけどコワい話”も好みだった。京極夏彦による〆の「見届人記」も、百物語の本質を語る見事な文章。
★★★☆(3.5)