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やっぱり「生きてる人間のほうが怖い」のか。原点に立ち返った粒揃いの1冊-『現代百物語 因果』

『現代百物語 因果』

岩井志麻子/2016年/209ページ

ダイヤが原因で滅びてしまった一家。夫が妻に語ったある夏の出来事。後輩に対して威圧的な振舞いを続けた男の末路。混線した電話から小さく聞こえる誰かの会話。欲望に支配された人の心の闇は深い。その闇が引き起こすさまざまな怪異におののくと同時に、同じような業に自分自身が囚われていることにふと気づかされる…。善悪の行為が因となり、その報いが身に降りかかる!恐怖がふつふつと臓腑に涌く現代怪談第8弾!

(「BOOK」データベースより)

 

 幽霊の話もそれなりにあるのだが、インパクトの強い話のほとんどが「心霊とか関係ない、生きている人間の厭な話」になっており、シリーズの原点に立ち返った内容。今回は1話(2ページ)に収まりきらず、2~3話を費やして語られるエピソードが多めなのも特徴か。
 本巻はかなり粒ぞろい。「第三十三話 ハートをつける女♥」のような、まるで理解の及ばないズレた思考の持ち主はやはり怖い。「第二十五話 神に選ばれし天使」「第九十六話 アイドルの思い出」のように、話し手のモラルと罪悪感の欠如にそれを感じるパターンもまた多い。「第三十七話 見知らぬお母さん」のようなただただ悲惨な話、「第六十三・六十四話 ベランダのたらい①②」のような犯罪に巻き込まれる話もこのシリーズならでは。
 「第二十九話 あてつけ水子供養」「第四十一話 蒸発した女」「第四十三話 ある夏の因果」などは岩井志麻子の短編そのままの業の深さである。究極は「第七十七話 加害者と被害者」で、実話怪談でこういう含みを持たせる描写はわりと珍しい気がする。

★★★☆(3.5)

 

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