『夜の紅薔薇 ヴェネツィア・ヴァンパイア・サーガ』
篠田真由美/2019年/301ページ
世界が災厄に見舞われた後のヴェネツィアで、少年ヒカルは不思議な力を持つ美少年と出会った。菫色の眸を持つ彼の名はアナスタシオ――闇の聖天使。彼は300年の時を生きる吸血鬼であり、黒衣に身を包んだ執事イズライールとともに、頽廃した水の都を陰で守護していたのだ。やがて彼のもとで暮らすようになったヒカルもまた、異なる力を持っていることを自覚していく。一方、アナスタシオに脅威を覚えるヴァティカンは、違うヴァンピロが現れると彼らに警告。ふたたびヴェネツィアは魔都と化した……。
名作『龍の黙示録』から連なるヴァンパイア・サーガ、電子オリジナル!
(Amazon解説文より)
世紀末に起きた異変“黒い潮(アクア・ネーラ)”の影響で、退廃と享楽の都市と化したヴェネツィア。人知れずアクア・ネーラから街を守り続けているのは、齢300歳を超える吸血鬼・アナスタシオであった。彼の正体を知るヴァティカンはパオロ神父を遣わし、「あなたを敵視する吸血鬼がヴェネツィアに侵入している」と警告する。果たして、アナスタシオとその執事・イズライールの目の前に少女の姿をした吸血鬼・ロザムンドが現れる。ロザムンドはアナスタシオの敬愛する師、アルバート・エドワーズの行方を尋ねる。ロザムンドを吸血鬼に変えたのもアルバートであり、彼女の心に渦巻いているのは大いなる復讐の念であった。
ロザムンドはアナスタシオの従者の少年・ヒカルを拉致するも、光の力を宿すヒカルを傷つけることはできなかった。ロザムンドの過去を知るにつれ、心を通い合わせるヒカル。だが彼らの前に神に仕える軍勢「ネフィリム」の一員が現れ、ロザムンドをその手にかけてしまう。続けてアナスタシオを標的と定めるネフィリムだが、姿を消したヒカルを追っていたイズライールが到着。ネフィリムと対峙したイズライールの、驚愕の事実が明かされる…。
『闇の聖天使』の続編で、電子書籍のみの刊行。角川ホラー文庫で電書のみの展開は非常に珍しい。明らかな未完で打ち切られるシリーズも少なくない中、刊行してくれるだけでもありがたいが。
アナスタシオの師である吸血鬼・アルバートの行方やアクア・ネーラの正体、そしてイズライールの過去といった謎が明らかになっていく。傍目には忠実なしもべとその絶対的な君主としか見えないイズライールとアナスタシオが、かなりギリギリの愛憎渦巻く関係性であったことが判明する終盤にはなかなか驚かされる。これは良い。前巻で思わせぶりにちょっかいをかけてきたヒカルの実家・九条家の連中だの、ヒカルの持つ力の詳細だの夜の市長だの、ほったらかしにされた伏線も多いものの、最終的にアナスタシオとイズライールの2人にスポットを当てて完結したのは正解だろう。
★★★(3.0)

