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幽霊屋敷調査のため集まる4人を待ち受ける周到な罠。シリーズものらしからぬ第1巻-『イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館』

『イヴルズ・ゲート 睡蓮(ロータス)のまどろむ館』

篠田真由美/2016年/336ページ

奇妙な外観の埃及屋敷に、心霊科学実験のため集まった4人の男女。戦時中、密かに持ち込まれたエジプト遺物がひしめく地下で、館の主は首無し死体で発見されたという。本人たち曰く“腐れ縁”で結ばれたトリノのエジプト博物館学芸員のルカと、比較宗教学者の御子柴は、館に渦巻く不穏な空気と、不可思議な現象に立ち向かう。だがそれは忌まわしい悲劇の始まりにすぎなかった…謎と恐怖が織りなす美麗な館ミステリ・ホラー。

(「BOOK」データベースより)

 

 考古学者・呉日向が建築したという「埃及(えじぷと)屋敷」。呉博士が屋敷内で怪死してからというもの、この建物は奇妙な現象と奇妙な死体が相次ぐ幽霊屋敷と化した。エジプト博物館の学芸員で考古学者のルカ・ローゼンスタイン、比較宗教学者にして心霊現象バスターの御子柴夜刀、かつて心霊少女としてテレビ番組でサイコメトリーを披露していた高梨衿、同じくテレパシスト少女として有名だった妹尾鏡子の4人は、心霊化学研究所の所長・門田譲に招待され、心霊現象の調査のため埃及屋敷へと集まった。豪勢な屋敷でのもてなしを楽しんでいた4人だったが、正体の知れない門田、不審な使用人、奇怪な構造の屋敷に不信を抱き始める。そしてある夜、大規模なポルターガイスト現象が発生。4人のうちひとりと門田が姿を消し、屋敷に閉じ込められた残りのメンバーは脱出を試みる。だがその頃、屋敷に隠されていた異界への門「イヴルズ・ゲート」が召喚の儀式を終えようとしていた…。

 

 20世紀末、ノストラダムス・イヤーに起きた未曽有の大災害によって壊滅した日本が舞台、というパラレルな設定は同作者の「ヴェネツィア・ヴァンパイア・サーガ」と共通している(とは言え、両シリーズの関連性はそれほど大きくない)。表紙イラストに愛犬・アヌビスと共に出ているルカ博士が主人公かと思いきや、彼はかなり謎めいた人物であり、作中でもその真意や能力が明らかになることはない。女好きで現実主義者、ルカとは腐れ縁のライバル関係にある御子柴教授のほうがよっぽど人間的である。話の中心になるのは元・心霊少女の衿で、物語の序盤は大災害が起きて以降は閉塞的な日々を送ってきた彼女の母親との確執、鏡子への複雑な想いなどがつまびらかに語られる。そして屋敷に魅入られた彼女自身が、心霊現象の元凶になっていく…という流れなのだが、怪異が起きるまでの溜めの時間が少々長く、色男の教授陣のオカルトバスターものを期待しているとちょっと肩透かしかもしれない。シリーズものとして読み始めると、いろいろと詰め込まれているわりに基本設定に関する情報の少なさがちょっと気になるが、幽霊屋敷+心理ホラーとしては悪くない。

★★★(3.0)

 

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