『最恐の幽霊屋敷』
大島清昭/2025年/368ページ
転落が止まらない、 ジェットコースター級の事故物件ホラー長篇!
「最恐の幽霊屋敷」という触れ込みで貸し出されている物件がある――。幽霊を信じない探偵・獏田夢久(ばくたゆめひさ)は、屋敷で相次ぐ不審死の調査を頼まれる。さまざまな理由でその家に滞在した者たちは、一様に背筋の凍る怪異に見舞われた上、恐ろしい死に直面する。屋敷における怪異の歴史を綴ったルポ。その中に謎を解く手がかりがあるのだろうか。調査に乗り出す獏田を待ち受ける、意外な真相とは――? 「最恐の幽霊屋敷」はなぜ生まれたのか、そして、何が屋敷を「最恐」にしたのか。恐ろしい真実がいま明かされる。
(Amazon解説文より)
探偵・獏田夢久のもとへ、友人の尾形琳太郎からひとつの依頼が舞い込んだ。尾形の会社が管理する不動産の中に、「最恐の幽霊屋敷」という触れ込みで貸し出されている物件があるというのだ。事務員の菱川野乃子によれば、その幽霊屋敷――旧朽城家はオカルト界隈では超有名な物件であり、過去に除霊を試みた霊能力者たちは全員命を落としているという。尾形の依頼は、この旧朽城家でかつて起きた事件の真相を調べてほしいというものだった。
婚約者の池澤大河とともに、旧朽城家で新生活を始めた村崎紫音だったが、真夜中に鳴るチャイム、顔の歪んだ女といった数々の怪奇現象に見舞われる。近所の住民・棘木の話によれば、この家は大河の叔母である拝み屋・朽城キイが殺された家なのだという。怪奇現象は次第にエスカレートしていき…(第一章)。
オカルトライター・鍋島猫助と霊能者・十文字八千代は、雑誌記事の取材のため旧朽城家で一週間滞在することにした。事前取材でインタビューをした村崎紫音らによれば、屋敷の奥座敷に「何か」がいることは確かなようだ。鍋島が大家の棘木にインタビューを行う中、不可解な現象が起きる…(第二章)。
映像制作会社のディレクター・五十里和江は夏の特番「最恐心霊現象ランキング」ロケの下見に、ADの篠田を連れて旧朽城家へ向かう。鍋島猫助著の『最恐の心霊屋敷に挑む』によると、この家に住んでいた拝み屋・朽城キイはかつて“8人の凶悪な霊”を封じ込めたのだという。犠牲者の手足を折り畳んで殺す黒い着物の女、渦巻のような歪んだ顔の悪霊「ウズメさん」、真夜中にチャイムを鳴らし住民の生気を奪う謎の訪問者、水槽の中に現れる男の生首、等々…。これらの霊が起こした怪異は、旧朽城家で観測された怪奇現象と一致している。五十里も心霊現象を目の当たりにし、ここが本物の幽霊屋敷であることを確信した。そしてアイドルの小鳥遊羽衣と、心霊研究家で霊能力者の新海渚をレポーターにロケが開始される。撮影中も容赦なく襲い来る怪異の数々。そして過去最大級の凄惨な事件が発生し…(第三章・第四章)。
ホラー映画監督の温水清は、小鳥遊羽衣が語る壮絶な体験に興味を覚え、友人のホラー作家・犀倉濃縮とともに旧朽城家を訪れる。霊感がある犀倉は「ここはもう最恐の幽霊屋敷ではない」と述べ、これまでに起きた事件の謎解きを始めるが…(第五章)。
増え続ける犠牲者。とどまる事のない怪異。調査を終えた獏田は旧朽城家の仏間に6人の関係者を集め、「真犯人」を推理する。最恐の幽霊屋敷を“最恐”たらしめている存在は何なのか。そしてその目的は? 霊の怨念とは異質な悪意が露わになったとき、事件の真相が明らかになる。と、思われたが…?(終章)
何が“最恐”かと問われれば、まず挙げるべきは犠牲者の数である。これが尋常ではない。死にすぎ。除霊を試みた者や自称霊能者はもれなく惨殺され、住人たちも高確率で怪奇現象に遭遇、最悪の場合は死亡する。この家に巣食う怪異の力が強すぎて、家に直接関わっていない人間にまで死の危険が及ぶほどだ。最終的な死者・行方不明者は軽く数百人を超える規模である。にもかかわらず、この激ヤバ物件は「最恐の幽霊屋敷」と堂々と名乗りつつ、普通に賃貸物件として入居可能という始末。なに考えてんだ!(この「なに考えてんだ!」が、終盤でけっこう重要な意味を持ってきたりする)
ここまで死者数がエスカレートするとギャグかなにかに思えてくるかもしれないが、本編に笑えるような要素は一切なく、その内容は終始凄惨そのもの。ド直球の怪異描写で徹底的に恐怖を煽る、ホラー中のホラーである。特筆すべきは「やり過ぎた結果、かえって怖さが薄れる」一歩手前で見事に踏みとどまっている点。そのバランス感覚が実に巧みだ。しかしまあ、「殺意マシマシの霊」ってメチャ怖いですよ。一切の理屈が通じない相手に殺される理不尽さ、死後に安寧は無いのだと突きつけられる絶望感…。誰だ「やっぱり人間がいちばん怖い」とか言ったやつ。
探偵が登場し、謎解き要素もあるが、本作はいわゆるホラーミステリではない。真犯人は一連の行動が明らかにヤバいし、その目的と手段も作中で言及されたまんまなので、ミステリ的な驚きはあまり無いだろう。謎解きはあくまで怪異を際立たせるための装置に過ぎず、謎が解けたことによるスッキリ感は皆無である。
最恐の幽霊屋敷はなぜ生まれたのか、そしていかにして“最恐”となったのか…。これらの真相が明かされたところで、物語は唐突に終わる。作者が描きたかったのは、まさにタイトル通りの『最恐の幽霊屋敷』そのものなのだろう。“最恐”が完成した時点で物語が終わるのは、むしろ必然とも言える。
★★★★(4.0)

