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土地に刻まれた消えない痕跡が道となる…。個性派怪談作家の競演が楽しい1冊-『国道1号線怪談』

『国道1号線怪談』

大島てる、黒木あるじ、田中俊行、村田らむ、夜馬裕、吉田悠軌/2025年/304ページ

通る者すべてを呑み込む実話怪談アンソロジー。

見慣れた道、見知らぬ恐怖。
東京から大阪まで、東西を結ぶ日本の動脈・国道1号。
この道は、古の東海道を受け継ぎ、時代を超えて人々の恐怖を映し出す。
東京・日比谷公園の噴水から這い出る黒い塊。
神奈川・鶴見に出没する謎の“猿”。
静岡の海岸沿いに眠る首塚の祟り。愛知の神社に伝わる禁忌。
三重・1号線沿いの忌まわしい事故物件。滋賀・琵琶湖に沈む数々の事件。
京都・市内で忽然と消えた道。大阪・淀川の河川敷に埋められた闇――。
恐怖は、確かにこの国道に息づいている。
道を辿るごとに、異形があなたの日常を侵食する。
気鋭の怪談作家たちが紡ぐ、戦慄の書き下ろし実話怪談集。

(Amazon解説文より)

 

 東京から神奈川、静岡と海沿いを通り愛知に、そして三重、滋賀、京都を抜けて大阪までを結ぶ国道1号周辺を舞台にした怪談集。それはある意味「東海道怪談」なのではないか? と思ったら、あとがきでもそう書かれていた(笑)。執筆陣は実話怪談好きならおなじみの実力派メンバー。文体も題材の選び方も、エピソードごとに書き手の個性がはっきり表れているので、読み比べる楽しさがある。

 吉田悠軌はこれぞ実話怪談という安定の語り口。黒木あるじは“道”という字の成り立ちに関わり深い“首”にまつわる数々の怪談から、ひとつながりの恐怖を導き出す。隙あらば本書を乗っ取ってやるぞ、という気概すら感じる完成度の高さは流石。事故物件公示サイトでおなじみの大島てるは、もちろん国道1号沿いの曰く付き物件についてのリサーチ記事。村田らむは事故物件や心霊スポットを現地取材した際のルポルタージュで、軽いエッセイ風の語り口がかえって生々しさを際立たせている。「厭さ」では本書の中でもトップクラスだろう。呪物コレクターの田中利行からは、自動車にまつわる怪談を2編。道路といえば自動車だが、本書には意外と自動車の出番は少ないせいか印象的。巻頭と巻末を飾る夜馬裕はストーリー性の高い構成の話が多く、怪談に留まらないドラマチックさすら感じさせる。

 

 いわゆるご当地怪談モノの亜種だが、「国道怪談」の嚆矢としての貫禄はある1冊。読み進めていくと、まるで自分が著者たちと乗り合わせて「不穏な旅路」を辿っているのではないか…という感覚に陥ってしまう。

★★★(3.0)

 

www.amazon.co.jp