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名家の一族にまとわりつく、忌まわしき過去と艶やかな黒髪。お膳立ては完璧なのだが…-『死に髪の棲む家』

『死に髪の棲む家』

織部泰助/2024年/368ページ

幽霊作家の仕事のため出雲秋泰が訪ねた素封家の屋敷には、死者の口に毛髪を詰めるという奇妙な因習があった。折しも屋敷では身元不明の老人が髪の毛で首を吊る怪事件が発生、秋泰は死体の番をせよと裏山の番屋に閉じ込められる。翌朝、床を人毛が埋め尽くし、死体は別人に入れ替わっていた!これは怪異か人の悪意か、すべてを説明する推理は存在するのか?息もつかせぬ第44回横溝正史ミステリ&ホラー大賞“読者賞”受賞作。

(「BOOK」データベースより)

 

 作家・出雲秋泰は大物経営者・匳金蔵の自叙伝代筆の仕事を受け、祝部村の匳屋敷を訪れる。この村には屋外で口に物が入ることを極端に嫌がる、という変わった風習があった。特に口に髪の毛が入った場合は、村はずれの不浄小屋で一昼夜を過ごし、その小屋を燃やしてようやく家に帰ることを許されるという徹底ぶりであった。

 祝部村に到着した出雲を迎えたのは、「匳屋敷で身元の知れない老人が自殺した」という奇妙な報せであった。翌日になってようやく屋敷に足を踏み入れた瞬間、出雲は口内に違和感を感じる。吐き出してみれば、それは誰の物とも知れぬ一本の長い髪の毛…。不吉な象徴が暗示するかのように、屋敷では奇怪な事件が次々と起こる。目撃された髪の長い幽霊とは? 死んだ老人は果たして何者だったのか? そして髪の毛が差し示す、恐るべき過去とは…。

 

 横溝正史ミステリ&ホラー大賞の読者賞受賞作。いかにもな「因習」っぽい雰囲気に反して、中身はゴリゴリのミステリである。続けざまに起きる奇怪な謎、謎、謎の連続に主人公・出雲の推理はことごとく覆され、事態は二転三転していく…。という展開が楽しめるのは序盤までで、中盤以降いきなり登場する女怪談師・無妙が主人公を上回る名探偵ぶりを発揮。意味ありげにヒントを指し示しつつおいしいところは持っていくという、大変ウザいキャラである。彼女の登場以降、屋敷の住民たちも秘密をベラベラ喋るようになるので捜査は大変スムーズに進む。なんだかなあ。最後に明らかになる無妙の「正体」もカタルシスがあるようなものではない。主人公はミスにミスを重ねたあげく不要な犠牲者を産んでしまい、終盤はかなりスッキリしない展開になってしまうのだが、これも探偵物へのアンチテーゼとかではなく、無妙上げの主人公下げが極まっただけにしか見えないのだ。

 正直なところ、キャラクターの人間味とリアリティの無さは本作の大きな弱点で、奇怪千万な不可能犯罪や、髪の毛の生理的な気持ち悪さが醸し出す‟死に髪”屋敷の厭な雰囲気など、せっかくの舞台があまり活きていない。あくまで謎解きのための謎解き物語であり、それこそ横溝正史的なもの期待すると肩透かしかもしれない。

★★★(3.0)

 

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