『玩具修理者』
小林泰三/1999年/224ページ
玩具修理者は何でも直してくれる。独楽でも、凧でも、ラジコンカーでも…死んだ猫だって。壊れたものを一旦すべてバラバラにして、一瞬の掛け声とともに。ある日、私は弟を過って死なせてしまう。親に知られぬうちにどうにかしなければ。私は弟を玩具修理者の所へ持って行く…。現実なのか妄想なのか、生きているのか死んでいるのか―その狭間に奇妙な世界を紡ぎ上げ、全選考委員の圧倒的支持を得た第2回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品。
(「BOOK」データベースより)
表題作「玩具修理者」は、アンモラル極まりないぞくぞくする展開にシンプルながらもバシっと決まるラスト3行のどんでん返しが非常に心地よく、ホラー短編としてはパーフェクト過ぎる1編。あまりにクトゥルフ風味が露骨だが、フレーバー程度でしかないので「ちょうどいい塩梅」な気がする。
もう1つの中編「酔歩する男」は、タイムトラベルもののSFとホラーが見事に融合した傑作である。愛する女性の死をきっかけに、恋敵だったうちの1人はクローン再生技術を、もう1人は時間を逆行させる狂気の研究に打ち込んだ。クローンは失敗したが、脳の時間流感知器官を破壊すれば時間の流れから解放されるはずだ。時間の流れは意識の流れであり、意識をコントロールできれば時間もコントロールできる…。荒唐無稽に思われた実験は見事実を結ぶが、時間は「最悪」の事象を彼らにもたらした。一読した時の「??? でも納得せざるを得ない…」という感覚はなかなか味わえるものではなく、読者も登場人物らと同じく自らの脳内をふらふらとさまよい歩くことになる。
角川ホラー文庫を代表する名著の1冊と言っていいだろう。2編ともエポックメイキングな好編である。表紙カバーは3パターンあり、個人的には2021年の最新版が好み。
★★★★★(5.0)