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食用豚、ゾンビになりたい小学生、妹に自死された兄…。圧倒的なまでに深い孤独を描き切る短編集-『トンコ』

『トンコ』

雀野日名子/2008年/253ページ

高速道路で運搬トラックが横転し、一匹の豚、トンコが脱走した。先に運び出された兄弟たちの匂いに導かれてさまようが、なぜか会うことはできない。彼らとの楽しい思い出を胸に、トンコはさまよい続ける…。日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した表題作をはじめ、親の愛情に飢えた少女の物語「ぞんび団地」、究極の兄妹愛を描いた「黙契」を収録。人間の心の底の闇と哀しみを描くホラーの新旗手誕生。

(「BOOK」データベースより)

 

 「トンコ」は逃げ出した養豚場の豚が主人公。すでに出荷されたきょうだい達の亡霊に誘われつつ、山をさまよい歩くトンコ。仮に主人公が人間であれば筋立てはまぎれもなくホラー小説なのだが、トンコは豚なので霊という概念すらなく、第三者視点では『ベイブ都会に行く』となんら雰囲気は変わらない。ユーモラスでありつつもどこか哀しい、不思議な味わいを持つ。
 「ぞんび団地」は、複雑な家庭環境の少女が「両親も自分もゾンビになれば家族が仲良くなるに違いない」と、ゾンビハザード地区でゾンビに襲われようとする話。早々にオチが割れてしまうものの、少女の健気さは胸を打つ。「黙契」はただ1人の肉親である妹に自殺された兄と、今まさに死んで腐りゆく妹の視点を交互に描く。残された者と死にゆく者、それぞれの痛切な想いが克明に描写された残酷な一編。
 どの作品も圧倒的に深い孤独を描きつつも、ラストには一抹の救いを感じさせる。それは孤独自体への救済であって、何らかの犠牲を払ってはいるのだけど。

★★★★☆(4.5)

 

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