『切れた糸 ~永井豪自選作品集~』
永井豪/2001年/354ページ
登校途中のススムは、公園で若い母親が我が子を撲殺する現場を目撃する。しかし、大人達が無感動に子供達を殺す怪奇現象は街中に広がっていた。逃げ惑いながら少年達は気づく。自分と親をつないでいたものは、本能というあやふやな見えない糸だったのだ、と……。(「ススムちゃん大ショック」)
平和な日常が突然歪み、不条理に崩れ去っていく恐怖。巨匠・永井豪の原点ともいえる傑作ホラー・アンソロジー!
(文庫裏解説より)
タイトルは説明不要の名作「ススムちゃん大ショック」より。「親が自分を殺すかもしれない」というシチュエーションは、呑気に暮らす小学生にとっては思いもつかない悪夢に違いない。
子供目線の恐怖を描いたもの(「鬼ごっこ」「白い世界の怪物」)、思春期の肥大したあやうい自我を描いたもの(「DON!」「蟲」)に加え、SF風味の強い「くずれる」、筒井康隆原作の「アフリカの血」、ラブコメと下ネタと怪奇を雑に組み合わせた「RED STRINGS」と、全体的に「かつての悪ガキだった読者へ」という雰囲気が漂うセレクト。「実はSFでも超常現象でもなんでもありませんでした、よかったネ」というオチも多いが、逆に言えば我々が平和な日常と思い込んでいる世界の危うさを教えてくれているとも言える。
トリを飾る「吸血温泉にようこそ」は、温泉地でバンパイアと狼男と女のハダカが乱れ飛ぶエッチバトルアクション。ヒロインが代々エクソシストの家系という適当極まりない設定がいさぎよい。クライマックスは襲い来るモンスターに「聖水攻撃だ!」と尼さんがオシッコをかけて撃退、吸血鬼は超能力"オシッコ封じ”で対抗するが、主人公側はウンコを漏らして反撃するというもの。「ススムちゃん大ショック」で暗い気持ちになった直後にこれが来るので脱力するが、むろんこういう作品も含めて100パーセントの永井豪である。
★★★(3.0)