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「女たちの愛と狂気」という新鮮味のないテーマを、新鮮味がないままに描くノベライズ-『ラブ サイコ 角川ホラーシネマ』

『ラブ サイコ 角川ホラーシネマ』

著:小川秀夫 原案:岡嶋寛人/2006年/173ページ

…愛がすべてと信じる恋愛依存症のあなたに…愛が見えなくなった恋愛恐怖症のあなたに…そして、自らの愛に狂気を感じるあなたに…。女たちの愛と狂気をテーマに、愛の中に潜む狂気、狂気の中から生まれる愛、誰もが心に持つ本能と欲望を様々なエピソードで綴っていくショートホラー7編。

(「BOOK」データベースより)

 

 ネットで配信された「角川ホラーシネマⅢ ラブサイコ」10編のうち、オリジナル脚本の7本をノベライズ。ちなみの残りの3編は小林泰三「家に棲むもの」「食性」、吉村達也「11037日目の夫婦」というなかなかわかってるチョイスである。

 巻頭作「二人の女」は、山奥で迷った男が若い女に出会い、こっちが村だから連れてってあげると言われたところへもう1人の年嵩の女が現れ、「その女は鬼です!」と言い放つ。山奥なのに街を歩くような恰好をした若い女。山小屋でひとり暮らしし、霊感を高めるため修行していると語る年嵩の女。どちらも怪しいが、いったいどちらを信じればいいのか…? という話。一捻りを入れた山の妖怪譚で、正直なところ本書で面白いのはこの作品だけである。

 「愛してる」は恋人を惨殺する夢を見てしまった男の幻覚、「峠の女」はドライブ中に妙な女を道端で発見するというお馴染みの怪談のアレンジ、「青い窓」は心理SF、「最高の彼氏」はホストとその客が深い仲になるも、入れ込んでいたのは実は…というわかりやすいサイコもの、「一緒に死にたい」は自殺サイトで出会った人々が練炭使ってさあ逝くぞとなった瞬間、怪奇現象に襲われるという話。バラエティに富んではいるが正直言ってどれも軽く、アイデアも驚くようなものではない。ページが少ないわりに本筋とはまったく関係ない部分の描写が妙に詳しく、短編でそういうリアリティの出し方はいかがなものかと思う。巻末作「二人の女&MEN」は巻頭の「二人の女」のセルフパロディで、完全なコメディになっており、これはわりと面白い。

 「女たちの愛と狂気」という新鮮味のないテーマを、新鮮味のないまま仕上げたという雰囲気。普通に映像版を観ればいい気がする。

★★(2.0)

 

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