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SF界の重鎮はホラーにおいてもレジェンド級。外れの無い15編-『霧が晴れた時』

『霧が晴れた時 自選恐怖小説集』

小松左京/1993年/432ページ

太平洋戦争末期、阪神間大空襲で焼け出された少年が、世話になったお屋敷で見た恐怖の真相とは…。名作中の名作「くだんのはは」をはじめ、日本恐怖小説界に今なお絶大なる影響を与えつづけているホラー短編の金字塔。

(「BOOK」データベースより)

 

 怪奇アンソロジーの常連「くだんのはは」や、本書には収録されていないものの都市伝説の一種として定着した感のある「牛の首」など、ホラー小説というジャンルにおいても小松左京は決して欠かすことのできないマスターピースである。科学に史学に地学にその他もろもろ、氏の各方面への深い知識と教養が変幻自在の恐怖世界を紡ぎ出す。もちろん、SF的発想とホラーの相性がいいのも言うまでもない。


 全15作、舞台もシチュエーションも恐怖の質も規模も、実にバラエティ豊かな作品がそろっている。村人が言う「すぐそこ」を信じて山道を歩くものの、いつまで経っても目的地にたどり着かない「すぐそこ」は、田舎あるあるをホラーとして新解釈して見せる手際が見事な一品。人はなぜ無惨な話に惹かれるのか? というテーマを「人類の歴史は恨みの歴史である」という観点から語る「悪霊」も忘れがたい。異国の寒村で“アルプ鳥”なる保護鳥の話を聞いた男の恐怖体験「保護鳥」も、海外パルプホラーの雰囲気が色濃く好きな作品だ。戦後の世にどこからともなく「赤紙」が若者の元へ届き、どこへともなく姿を消していく「召集令状」は、時代を越えて語り継がれるべき恐怖である。

 作者自身による本書のあとがきでは、収録作品をいくつかのバリエーションで分類しており、なかなか興味深い。小松左京ライブラリによる解説とあわせてこちらも必読である。ちなみに作者が選ぶもっとも怖い作品は「骨」「保護鳥」「秘密(タプ)」なのだとか。

★★★★★(5.0)

 

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