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京言葉が紡ぎ出す、雅で醜怪な異界譚。後味の悪さが癖になる-『お見世出し』

『お見世出し』

森山東/2004年/200ページ

お見世出しとは、京都の花街で修業を積んできた少女が舞妓としてデビューする晴れ舞台のこと。お見世出しの日を夢見て稽古に励む綾乃だったが、舞の稽古の時、師匠に「幸恵」という少女と問違われる。三十年前に死んだ舞妓見習いの少女・幸恵と自分が瓜二つだと知り、綾乃は愕然とするが――。千二百年の都・京都を舞台に繰り広げられる、雅びな恐怖譚。第十一回日本ホラー小説大賞短編賞受賞の表題作に二編を加えた珠玉の短編集。

(「BOOK」データベースより)

 

 収録されている3編、すべて京言葉の一人称で語られているため雰囲気があり、すらすらと読めてしまう。いずれもラスト数行の展開で後味の悪いオチがぐさりと刺さる逸品ぞろい。

 「お見世出し」は、はるか昔に死んだ才能ある舞妓見習いの幻影にいまだ囚われ続けている、とある置屋の話。作者はどの作品においても綿密に取材をしているようで、本作でも舞妓さんの文化・風習を知れる豆知識や専門用語が満載。
 続く2編目のタイトル「お化け」とは節分の夜に行われる芸妓さんの仮装イベントのこと。「お見世出し」と同じく、舞妓たちが生活する置屋が舞台で、主人公・意地悪な先輩・ちょっと霊感のある先輩・先輩に虐められる新人の後輩といったキャラ立て。前半では「決して顔を見せない小母さん」がいかにも怪しげに登場し、その素顔はとんでもないものなのだが、実はこの人は話の本筋には絡まない。舞妓を狙う恐ろしい「鬼」の話であり、人物評価と話の筋が二転三転するボリューミーな一編。
 グロテスクな小説はそれなりに読んできたつもりだが、それでも「呪扇」にはドン引きに近い衝撃を受けた。国レベルで災厄を巻き起こす、強烈な呪いが込められた扇を作り出す扇職人の話だが、その制作過程が完全にスプラッター。よくもまあ、ここまでおぞましい扇を創造できるものだ。

★★★★★(5.0)

 

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