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幸せな一家(うわべだけ)を脅かす殺人鬼の正体は? ミステリかと思いきやラスト2ページの驚愕展開-『ガブ ー鬼翔ける夜ー』

『ガブ ー鬼翔ける夜ー』

田中文雄/1993年/207ページ

 闇の中に浮かびあがる女、その手には鋭い刃の鋏が握られていた!

 幼い少女が大切にしていたフランス人形をズタズタに切り裂き、家族が愛したペットの仔犬を惨殺したもの。“それ”は欲望うずまく大都会の夜を翔け、瀟洒な住宅街で幸せそうに暮らす家庭に入り込んでゆく…。平穏な日常を襲う狂気と怨念。猜疑心が生む恐怖をサスペンスあふれるタッチで描く、モダンホラーの傑作。

(Amazon解説文より)

 

 化粧品会社の社長・湯浅英明と妻、娘の一家は、傍から見れば幸せいっぱいに見える典型的な上流家族。だが英明が仕事先の女性と愛人関係にあることが妻にバレて以来、微妙どころではないギクシャク感が漂っていた。そんな最中、一人娘の誕生日にプレゼントした人形が、侵入した何者かによってズタズタに切り裂かれるという事件が起こる。妻は一家を羨む愛人の仕業だと訴えるが、一方の愛人本人は「妻の狂言」と断言する。そうこうしているうちに飼い犬が首を折られて斬殺され、英明は真犯人探しにやっきになるのだが、ついには人間の犠牲者が…。

 この英明という男がクソのほどにも役に立たない無能であり、愛人と妻との間をウロウロしているばかり。起きる事件の8割がたはこいつの責任なので読んでいる方も「大変ッスねwww」くらいしか感想が湧かない。半分くらいまで読めば真犯人はこいつしかないなと絞ることができ、最終章で駆け足気味にその正体が明かされた時は「やっぱりそうか~バレバレだったな~」と少々物足りない気持ちだったのだが、ラスト2ページですべてがひっくり返され(伏線はあったものの)、ミステリからホラーへと一大転身を遂げる。

 角川ホラー文庫創刊を飾る1冊であり、あとがきによれば「スティーブン・キングのような純粋なホラーを」という注文を受けたとのこと。貴重な証言ではないか。

★★★(3.0)

 

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