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後味の悪さと謎の感動がラストで入り混じる大石圭版『ロリータ』-『檻の中の少女』

『檻の中の少女』

大石圭/2008年/381ページ

孤独な画家の「僕」は、モデルの美しい少女と、心を通わせていく。ある日、画商の提案で、少女のヌードを描くことになる。その裸体の美しさに衝撃を受けた僕は、辛うじて欲望を抑える。だが、少女が母親の激しい暴力を受けた夜、二人はついに一線を越えてしまう。僕は少女との愛欲に溺れながら、絵を描き続ける。その関係が大きな悲劇を招くとも知らずに…。恋愛小説とホラー小説の融合が生んだ、奇跡の傑作。

(「BOOK」データベースより)

 

 33歳の画家と11歳のモデルの少女との禁断の恋を描く、大石圭版『ロリータ』…といった趣。前半は社会性に乏しい画家が明るく活発な少女に惹かれ、少女もまた支配的な母親(どう見ても完全な毒親である)や所在の知れない父親の代わりに、家庭の安らぎを画家に求めていく様がお互いの視点で描かれていく。それまでパッとしなかった画家の絵は精彩を帯びていき、少女をモデルにした絵は評判となる。ここまでならまだ恋愛小説のテイをなしているのだが、少女のヌードを画商から依頼されたことがきっかけで2人の関係の危ういバランスが崩れる。「ついに一線を越え」たあとは「ああっ、僕はなんという男なのだろう」と自責しつつも絵をそっちのけで1日3発ハメ通し、少女も1回ごとにセックス料金を画家から取り始める始末。ついには少女の父親が自分自身だったことが判明し、ショックを受けるもののそれはそれとして1日3発はやめようとしない画家。当然、そのような関係が長続きするわけもなく、画家と少女の関係は少女の母親(画家の元恋人)の知ることとなる。「弁護士に相談してしかるべき措置を取る」と少女の母親に告げられた画家がとった行動は…。

 すべては終わり、物語は5年後、そしてエピローグへとつながるのだが、ここでまた画家がとんでもない行動に出る。半分官能小説のドロドロサスペンスじみた本書のホラー性はこの第3部以降に凝縮されているのではないかと思う。美しかった関係性は時とともに消え去り、後に残るのは腐敗臭すら漂う現実だ。ラストはなんとなくお互いに納得できる形に落ち着いて良かったネみたいな雰囲気で終わり妙な感動すら覚えるが、そこで読者は改めて本書のタイトルの意味を知り、その救いの無さに嘆息するのである。おそらくはもう檻を出ることのない少女に…。「あとがき」の何とも言えなさも含めて、作者のカラーが存分に出た1冊と言えましょう。

★★★☆(3.5)

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