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理不尽が生む孤独が理不尽な惨劇を起こす…。それにしてもこの霊能者はヒドいな!-『呪怨 黒い少女』

『呪怨 黒い少女』

大石圭/2009年/157ページ

看護師の裕子は、芙季絵という少女の担当を任されてから、奇妙な体験をするようになる。そして検査の結果、芙季絵の体内に「腫瘍」が発見される…。生まれてくることのできなかった者の怨みが少女を蝕み、やがて周囲の人々を呪っていく。芙季絵の母・季和子は霊力を持つ妹・真理子にすがり、除霊は成功したかに思えた。―しかし、それは最悪の「呪怨」の始まりだった…。

(「BOOK」データベースより)

 

 『呪怨 白い老女』と同時上映された映画のノベライズで、相変わらず本家『呪怨』シリーズとはまったく関係ない。世の理不尽が最悪の怨霊を生む、ただただ暴力的に人々を呪殺していくという救いのなさには『呪怨』と通じるものがあり、ノベライズではその辺りの関連性が強調されている。

 「黒い少女」とは、小学生の女の子・芙季絵の周囲に現れる、髪も服も顔も全身真っ黒な少女のことである(まんまだな)。あらすじを見ればわかる通り、生まれずに吸収されてしまった双子の片割れが腫瘍となって…という題材は正直言ってあまり新鮮味が無い。終盤、芙季絵の叔母・真理子が実は霊感のある修験者であり、身を清めて悪霊と対決するという唐突な展開になるのだが、この真理子の無能さは凄い。ホラーに出てくる霊能者は噛ませ役になることが多いが、単純なミスでここまで事態を悪化させるケースはなかなかいない。自分は霊感があるから!と言って家を飛び出し、2年後に心労で死んだ親の葬式にも出ず、じゃあ厳しい修業をしていたのかと言えば「なんか違う」という理由で俗世へ戻り、普通に結婚しちゃってました…というプロフィールも「霊能者としては1ミリも信用できない」という意味で完璧である。なんなんだこの女は。真理子が散々引っ掻き回していったものの、無常かつ静謐なラストは悪くない。ちなみに『白い老女』で磯部一家が引っ越してきた「格安の物件」とは、本作で真理子が住んでいた家のようだ。この2作の関連性はそこだけである。

★★★(3.0)

 

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