『呪怨 白い老女』
大石圭/2009年/179ページ
ある家で、司法試験に落ちた息子が家族5人を次々と惨殺し、自らも首を吊って死んだ。死ぬ瞬間を彼が録音したカセットテープには、彼の声とともに少女の不気味な声が録音されていた。それは、あかねが小学生の頃に親友だった未来の声だった。未来は一家惨殺事件の被害者だったのだ。そして7年後、幼い頃から霊感の強かったあかねの前に黄色い帽子をかぶり赤いランドセルを背負った未来が姿を現す…。
(「BOOK」データベースより)
『呪怨 黒い少女』と同時上演された60分の短編をノベライズ。白い老女とは、監督の三宅隆太が『怪談新耳袋 劇場版』で担当した「姿見」に出てくる、通称「バスケババア」のことで、本作は悪霊バスケババアが誕生したきっかけを語るエピソードである。つまり『呪怨』とはまったく関係ない話なのだが、このノベライズ版ではプロローグに無理やり伽椰子を登場させることでシリーズとの関連を持たせている。あとバスケババアのことも特に知らなくてOK。
クリスマスの夜、一家が惨殺された家で死体の第一発見者となった青年・萩本文哉が巻き込まれる惨劇。その7年後、惨殺事件の被害者・磯部未来の友人だった女子高生・柏木あかねが遭遇する、磯部未来の亡霊と「白い老女」の怪。そして磯部家の家族5人が惨殺された事件の当夜の出来事。時系列を前後しつつ、複数の事件が展開していく様は確かに『呪怨』的だ。ノベライズ版ではこの時系列シャッフルをうまく活かし、プロローグとエピローグを印象深いものにしている。
本作では死んでもボケたままとしか思えない、出どころのよくわからない凶悪さで人を殺しまくるバスケババアよりも、司法試験に落ち続けた結果ブチ切れて家族を皆殺しにする無職の29歳のほうが怖い。平凡ながらも特に何もいいことがなかった人生を送った人々が、何もいいことが無いまま惨殺されていくシーンの陰惨さと来たら! ホラーならではの後ろ向きな仄暗い感動を覚えるほどだ。サラリと読めて満足度も高いパルプな小品。
★★★(3.0)