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官能的な薫りに誘われるまま殺人を犯す、大石作品お馴染みのド変態ハンサム繁盛記-『殺人調香師』

『殺人調香師』

大石圭/2011年/400ページ

柏木はハンサムな若き調香師。彼の調合する香水を求め、店には多くの婦人たちが訪れる。だが柏木には大きな秘密があった。彼は調香師にして―連続殺人鬼。命を失ってから数時間にわたって皮膚から立ちのぼる『その薫り』に包まれながら、殺した女を犯すことが、彼の至上の喜びなのだ―。だが今までで最高に惹かれる『その薫り』の美少女・レイナと出会った時、禁断の悲劇が幕を開けた…!倒錯的エロティック・ホラー。

(「BOOK」データベースより)

 

 柏木は天才的な嗅覚を持つ調香師。数十メートル離れた場所からでもあらゆる匂いを正確に嗅ぎ取る特技を持つ彼は、有閑マダム相手にオリジナルの香水を作ることで人気を博していた。だが彼は特定の女性が漂わせる『その薫り』に強く執着しており、『その薫り』を持つ女性を今まで何人も殺害していたのだ…。

 若くハンサムで独身、仕事で成功を収め、ペットの犬と共に豪華な洋館でひとり暮らし。その正体は連続殺人鬼で、わりと衝動的に犯行におよぶわりになぜか逮捕されない…という、大石圭作品ではもはやお馴染みと言ってもいいタイプの主人公だが、柏木は「キちゃってる度」ではかなり上のほうだ。オリジナル香水を作る際は「本人の匂いを直で嗅がないとピッタリなものが作れない」とのたまい、女性たちを下着姿にひんむいて脇や股間に鼻をうずめたりする。変態である。また、『その薫り』を持つ女性が死ぬとさらに薫りが強まることを知り、薫りを嗅ぎたいがために次々と女性を絞殺していく。変態である。しかも『その薫り』を持つ女性相手でないと勃起せず、絞殺した女性を何日もかけて死姦しながら存分に匂いを嗅ぐ。もう変態を超えたおぞましさである。実は柏木を17歳で産んだ母は彼を置いて失踪しており、その体験が彼を強烈なマザコンかつ歪んだ感情の持ち主にしてしまっているのだ。

 と、主人公のキャラ付けは強烈なのだが、オチはあまりにも予想通り過ぎるうえ、『その薫り』を持つ女たちの共通点もあいまいなまま終わっており、消化不良感がある。作者の同テーマの作品『湘南人肉医』『殺人勤務医』辺りと比べるとエロチックな描写が充実している一方、ホラーとしてもミステリとしても弱い。ちなみに「超人的な嗅覚を持つ殺人鬼」という題材は『香水 ある人殺しの物語』と被りまくっているが、あとがきでも書名を挙げられているので元ネタの1つには間違いないようだ。

★★☆(2.5)

 

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