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人肉を喰い荒らす鳥人間! 佐渡に蘇る‟お鳥様”が恐怖と奇跡を呼ぶ-『鳥追い』

『鳥追い』

和田はつ子/2000年/284ページ

食い破られた喉、貪られた臓器、啜られた脳。女子高生の児島虹香はラブホテルで無残な死体となって発見された。しかも死体に残された体液は、未知の生物の物だった。『多重人格殺人』以来の文化人類学者・日下部遼と女性刑事・水野薫の名コンビが、この猟奇殺人の謎に迫る。類似事件が佐渡で起きたことをつきとめた二人。だが、そんな二人を嘲笑するように新たな連続殺人事件が起こる。死を呼ぶ「お鳥様」の伝説が今、蘇る。

(「BOOK」データベースより)

 

 文化人類学者・日下部遼シリーズの一作。ハルキホラー文庫などでも展開しているこのシリーズ、サイコスリラーものかと思いきや、荒唐無稽なモンスターが登場したりとわりとなんでもアリ。バイオ昆虫人間が登場した『虫送り』直後の時系列に当たる本作もモンスター路線である。

 未知の動物に喰い荒らされたかのような惨殺事件が連続して発生。犠牲者の1人である女子高生から検出された精液を検査したところ、「人間と鳥の特徴を持ち、非常に好戦的かつ飛行可能、腹部は鱗に覆われ背部には羽毛が生えた生物」であるという結果が出た。

 かつての友人、松宮勇気から佐渡島に招待された日下部は、かつて発生した類似の猟奇事件についての調査を兼ね、水野刑事とともに佐渡へ向かうのであった。犯人は人智を超えた怪物なのか? 女子高生が遺した手がかり‟ソロモンの指輪計画”とはいったい? そして現地の人間がふと漏らした‟お鳥様”の伝説とは…?

 

 よくある犯罪ものかと思いながら読んでいくと‟ソロモンの指輪計画”なるワードが唐突に出てきてトンチキ感があるが、前述の通りなんでもアリな世界観、かつ水野刑事がどんな突飛な推理でも受け入れてしまう懐の広い人なので、そういうモンだと思ってください。佐渡の風俗・歴史ネタは豊富で、シリーズおなじみの食べ物へのこだわりも顕著。キーパーソンの松宮が佐渡一の酒蔵の御曹司なのもあって酒関連のネタも多く、この辺りは個人的には楽しく読めた。

 前述の通り「モンスターが普通に存在しうる世界観」なのでトリックも何もなく、連続殺人事件の真相も相当にぶっ飛んでいるがインパクトはなかなかのもの。その割に山場となるシーンの盛り上がりが薄く、淡々と進行してしまうのはもったいない。作風と言ってしまえばそれまでだが、もっとエンタメに寄せられる気もする。あと警察は青酸化合物、ちゃんと量り直しとけ!

★★★(3.0)

 

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