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恐怖のバイオ昆虫と伝奇ミステリの食い合わせはイマイチな結果に…-『虫送り』

『虫送り』

和田はつ子/2000年/305ページ

北海道、井戸無村。そこでは生物農薬として使っていたてんとう虫が異常繁殖を始め、川魚を集団で襲うという怪現象が起きていた。そしてこの現象に疑問を持った人間が次々と怪死を遂げる。一方札幌では、虫の死骸とともに木箱に入った女性の白骨が発見された。村に研究のために滞在していた文化人類学者の日下部が見た悲劇とは…。虫に憑かれた男の狂気が生み出す戦慄のバイオ・ホラー。

(「BOOK」データベースより)

 

 文化人類学者・日下部遼シリーズの一本。日下部は自身のルーツでもあるアイヌ文化を研究するため北海道へフィールドワークに赴き、井戸無村の名門・喜多川家に身を寄せる。この村では新種のテントウムシを生物農薬として使用していたが、このテントウムシを創り上げた速見は殺人鬼、かつ被害者を虫に喰わせることを趣味とする変態であった。速見はテントウムシ研究のかたわら人間に寄生するアリを開発、喜多川家の次女・翔子がらその犠牲となる。続いて生物農薬導入に反対する喜多川家の長・達三と、アリの脅威に気づいた村の医師・富永を殺害。翔子は異様な食欲を発揮し、口から湧き出るアリたちを周囲の人間に寄生させていった。もはやアリ人間と化した若者たちを日下部は救うことができるのか!? という話だが…。

 自然に暮らすアイヌの文化が、科学技術の産物であるバイオ昆虫におびやかされる…という図式は理解できるのだが、寄生アリの所業がトンデモ過ぎて妖怪に近い存在と化しているため、どうもチグハグになっている印象がある。序盤はミステリの雰囲気を醸し出しているだけになおさらだ。思い切って村がアリ人間に侵略されるバイオハザードものにしたほうがすっきりしたのではないかという気がする。アリ人間の血液中に無数の虫たちが蠢いている等のゾワゾワする描写はあちこちにあり、うまくすればジョン・ソール『妖虫の棲む谷』のようなモンスターものの傑作になったかもしれないのだが。ラストの「伝統行事である虫送りですべて解決しました」というオチもバイオホラーとは相性が悪いような…。

★★☆(2.5)

 

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