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読み手の嗜虐欲と被虐欲を煽りまくる、他人にまったく勧められない甘美で凶悪な短編集-『姉飼』

『姉飼』

遠藤徹/2006年/172ページ

さぞ、いい声で鳴くんだろうねぇ、君の姉は――。蚊吸豚による、村の繁栄を祝う脂祭りの夜。小学生の僕は縁日で、からだを串刺しにされ、伸び放題の髪と爪を振り回しながら凶暴にうめき叫ぶ「姉」を見る。どうにかして、「姉」を手に入れたい……。僕は烈しい執着にとりつかれてゆく。「選考委員への挑戦か!?」と、選考会で物議を醸した日本ホラー小説大賞受賞作「姉飼」はじめ四篇を収録した、カルトホラーの怪作短篇集!

(「BOOK」データベースより)

 

 全4編、いずれも傍若無人というか挑戦的というか、非常に人には勧めづらいものの妖しい魅力に満ちた短編集。

 やはり「姉飼」が突出した出来。全編、読み手の嗜虐欲と被虐欲を煽る描写がミチミチに満ちた怪作である。もちろん「姉」の存在がその最たるものだが、悪臭にまみれる村の描写、「フジムラクン」に見限られる「センセイ」のエピソード、経済的な破滅へと突き進みながらも一片の後悔も感じさせない主人公の所業、そして薄々感じていた悪い予感が見事に的中するラストシーンと、作品全編が嗜虐と被虐の乱れ打ちで構成されている(だから、本作のラストに対し「ひねりが無い」と評するのは的外れもいいところだろう)。

 「キューブ・ガールズ」はお湯で温めると生まれるという、自我を持つ女性型オモチャが一般化した未来のちいさな悲劇。「ジャングル・ジム」は公園のジャングル・ジムの視点で描かれる恋と絶望の物語。『壊れた少女を拾ったので』収録の「カデンツァ」しかり、この作者は無生物と人間との恋というテーマを描くのが上手い。「妹の島」は一面に果樹園が広がる温暖な島で、経営者の一家がひとりまたひとりと果物に埋もれた惨殺死体で発見されていく。自らの身体を苗床として、寄生蜂に卵を産ませ続ける果樹園主。島のどこかに幽閉されていると噂されるその妻。死んだ妹を蘇らせるため魂を集める養蜂家。島には無数の蜂や害虫が沸き、果樹園は腐り果て、芳香と腐臭が島を覆い尽くす。そしてすべてが臨界点に達したとき――という、金田一チックなオカルトミステリの設定を張るだけ張りめぐらせ、すべてブン投げる驚愕の一編。

★★★★☆(4.5)

 

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