角川ホラー文庫全部読む

全部読めるといいですね。

ひたひたと忍び寄る水怪の群れ。姿を見せない怪異がいちばん怖い-『仄暗い水の底から』

『仄暗い水の底から』

鈴木光司/2001年/242ページ

巨大都市の欲望を呑みつくす圧倒的な〈水たまり〉東京湾。ゴミ、汚物、夢、憎悪……あらゆる残骸が堆積する湾岸の〈埋立地〉。この不安定な領域に浮かんでは消えていく不可思議な出来事。実は皆が知っているのだ……海が邪悪を胎んでしまったことを。「リング」「らせん」「ループ」の著者が筆力を尽くし、恐怖と感動を呼ぶカルトホラーの傑作。

(「BOOK」データベースより)

 

 東京湾とその周辺を舞台に、様々な水妖・水怪を描く。テーマは一貫していながらもバラエティ豊かな恐怖を提供してくれる傑作短編集。
 「浮遊する水」は映画『仄暗い水の底から』の原作。マンションの貯水槽に死体が…! というよくある都市伝説(実際あった事件らしいが)が元ネタだが、「対象」が直接描かれてないにも関わらず猛烈に怖い。マルチ商法バカ夫婦が豪華ヨットで遭難する「夢の島クルーズ」も同じ手法だが、この2作は本短編集の中でもトップクラスの不気味さ・不穏さを誇っている。
 「孤島」はレインボーブリッジ脇の無人島・第六台場に置き去りにされたという女の幻影を追う話。調べてみたらメチャ小さい島でした。まさかあんな場所で…。DV漁師が殺した妻に復讐される「穴ぐら」、東京湾で起きる幽霊船譚「漂流船」もストレートな怪談ながら読み応えあり。
 「ウォーター・カラー」は舞台で起きた謎の雨漏りの原因を調査するため、上階の女子トイレに向かった劇団員が怪異に遭遇する話。これはまあ素直に騙されたというか予測不能だよこんなの。
 「海に沈む森」は、山登り中に偶然見つけた鍾乳洞に入ってみたら案の定遭難した男の話。絶望的な状況から、家族を想い脱出のために勇気を奮い起こす姿が強く印象に残る。短編集全体のプロローグ・エピローグでも「海に沈む森」は深く関わっており、ラストを飾るにふさわしい一編。

★★★★☆(4.5)